ドラクロアの‘山峡におけるアラブ人たちの戦い’(1863年)
上野の西洋美は倉敷の大原美ととも日本における西洋絵画の殿堂ともいえる美術館。平常展をのぞくと古典絵画から自慢の印象派までの西洋画の流れが粗くだが頭のなかにはいる。運よくここに展示されている画家はどんな絵かイメージできるようになるが、世界は広いし作品を所蔵していない画家は数多く存在する。
絵画が好きな人は西洋美で西洋画の場ならしをすると、次に目指したくなるのはパリのルーブル。ここではダ・ヴィンチの‘モナリザ’をみなくてはいけないし、ドラクロアの‘自由の女神’にも挨拶をしておきたい。また、フェルメールのある部屋にも急がなくてはならない。そんなこんなで一回目のルーブルはとても忙しい。
だから、フェルメールの部屋から近い所に飾られている二コラ・プッサン(1594~1665)やクロード・ロラン(1600~1682)をみる時間は残ってないかもしれない。ガイドブックにプッサンの代表作‘アルカディアの羊飼いたち’が必見の名画と記述されているか知らないが、2つの部屋にはプッサンが20点くらい展示してある。
ほかのビッグ美術はプッサンをこれほど多くはもっていない。エルミタージュが12点、プラド8点、メトロポリタン、ロンドンのナショナルギャラリー、そしてワシントンのナショナルギャラリーが正確に何点もっているか押さえていないがそれぞれ4,5点みた。4点でていたワシントンでは‘キリストの洗礼’が記憶に強く残っている。
2008年はプッサンの当たり年だった。運よくMETで遭遇した大規模な回顧展で39点みることができ、その年まわったルーヴル、ロンドン、ワシントン、シカゴでみたものを加えると全部で73点。これで一気にプッサンが近くなった。
ロランもプッサン同様、その画業人生の大半をローマですごしたフランスの画家。広々とした風景のなかに古代建築や廃墟を描くことにより神話の世界の舞台づくりをし話の主役たちを登場させた。‘パリスの審判’はお馴染みの美女選びの場面。最も美しい女性を決めるのに相応しいように空を意図的に明るくしている。
コロー(1796~1875)の‘フォンテーヌブローの森’は明らかにプッサンとロランの影響をうけている。画面の左手前をみると、川のほとりで女性がのんびりと寝そべって本を読んでいる。視線を支配するのは森の風景だが、女性のくだけすぎた姿が気になってしょうがない。
コローより2年あとに生まれたドラクロア(1798~1863)の‘山峡におけるアラブ人たちの戦い’は中くらいのサイズの絵、お得意の馬を躍動させたり転がしたりしてアラブ人たちの緊迫した戦いの様子をいつものように激しく描いている。