レンブラントの‘ベルシャザルの酒宴’(1635年 ロンドン ナショナルギャラリー)
本日の日曜美術館でとりあげられたミュシャ、今、六本木の森アーツセンターギャラリーで‘ミュシャ展’(3/9~5/19)は行われていることはもちろん知っている。はじめはでかけることにしていたが途中から気が変わり今回はパスでもいいかなと思っていた。以前にもプラハのミュシャ財団蔵のものはみる機会があり、作品の中心となっている装飾ポスターも結構みたというのがその理由。
ところが、番組の最後にでてきたミュシャ(1860~1939)が晩年に描いたという娘の肖像(油彩)が強い磁力を放っていたのでやっぱり足を運ぶことにした。処分したチラシにもこの絵が載っていたが、映像とはいえ本物にちかいもののほうがインパクトがあり、この絵は見逃せられないというのが素直な感情。
もう1点心を揺すぶる作品がでてきた。初見ではなく数回お目にかかっている‘メデイア’のポスター。この絵が目に焼きついて離れない一番の理由はそのびっくりした目。イアソンに捨てられたメデイアはあろうことかわが子まで殺してしまう。嫉妬が憎しみに変わり大きくしのびよってきた狂気性が皆殺しへと駆り立てる。タイムスリップしてサラ・ベルナールが演じてみせたたこの凍りついた目を劇場でみたくなった。
人物の心の中が手にとるようにわかるように描かれた絵はそうない。ミュシャの絵以外でびっくりした表情が忘れられない作品は3点。‘あらー、なんてことなの?王様の顔が恐怖でひきつっているわ’という感じなのがレンブラント(1606~1669)が‘ベルシャザルの酒宴’で描いた女。この絵をロンドンのナショナルギャラリーでみたとき、目が釘づけになったのは王の表情よりもこの隣にいる女のほう。まるで映画によくでてくる驚きの場面をみているよう。人間の感情がこれほどリアルに表現された絵をみたのははじめて。腹の底からレンブラントはスゴイなと思った。
ハッとする体験は昨年久しぶりにあった。それはBunkamuraの‘レーピン展’に出品された‘思いがけなく’。部屋に入ってきた男性を子どもと二人の女性が‘ええー、戻ってきたの?!’という顔つきでじっとみている。後ろの女性は死んだ人間が生き返ったかのようにおそるおそる見ている感じ。そのびっくりした目がじつに生感覚。
もうひとつジャコメッティ((1901~1966)が制作したヴェールを被った女性の頭部像も強烈なインパクトをもった作品。狂気じみた顔つきとテーブルにおかれた切断された手、ミュシャのメデイア同様、不気味で重っくるしい雰囲気が漂っている。