‘羯鼓催花・紅葉賀図蜜陀絵屏風’(重文 17世紀 静嘉堂文庫美)
葛飾北斎の‘隅田川両岸景色図巻’(1805年 すみだ北斎記念美)
美術品と出会って大きな感動をおぼえる作品は二つの場合がある。ひとつはずっと追っかけていたものと対面したとき。もうひとつは情報のなかったものが現れるとき。
ベスト10のうち後者のものは4点、静嘉堂文庫美で開催された‘漆芸名品展’(10/8~12/11)で10年ぶりに公開された‘羯鼓催花・紅葉賀図蜜陀絵屏風’も情報がまったくなかったもの。漆を使って描かれた絵をみる機会はきわめて少ないから、こうした屏風サイズの大きな蜜陀絵と遭遇したことはエポック的な鑑賞体験となった。
西洋画では陰影や奥行きを表現するのは当たり前のことだけれど、日本画では画面は平板で物の影はつけないのが伝統的な描き方。でも、浮世絵師の葛飾北斎(1760~1849)や歌川国芳(1797~1861)は影をつけたり遠近法を使い奥行きのある画面をつくることに躊躇しなかった。
開館を首を長くして待っていた‘すみだ北斎記念美術館’、11/22にはじまった‘北斎の帰還’(来年の1/15まで)には目を釘付けにする肉筆の絵巻が登場した。100年ぶりに日本に帰ってきた‘隅田川両岸景色図巻’、7mもある画面を夢中になってみた。
目を見張らされるのが大川橋や川をいきかう舟の川面に映る影、これほど西洋画的な陰影表現がでてくる浮世絵をみたことがない。流石、北斎! 西洋画の手法でも貪欲に吸収し絵画表現の可能性をとことん極めようとした北斎だからこそこんなすばらしい風景画が誕生した。北斎に乾杯!
サントリー美の‘小田野直武と秋田蘭画’(11/6~1/9)で期待値の高かったのが佐竹曙山(1748^1785)の‘松に唐鳥図’、赤い鳥と近景の松をどんと大きく描いて画面に奥行きを強く感じさせる構図のインパクトの強さが忘れられない。