先月は長野県諏訪湖のほとりにあるサンリツ美を訪問したが、今度は三度目となる茨城県北部の五浦美に遠征した。今回は隣の方はお休みなのでクルマは走らせず、JR常磐線の特急に品川から乗り込んだ。列車の利用ははじめてなので勝手がわからず家を出たのは朝の8時20分、最寄りの駅、大津港駅に着いたのは午後1時をまわっていた。
茨城県天心記念五浦美で明後日の9/4まで行われているのは長野県の佐久市立近美が所蔵する日本画の名品展‘日本画、新しき風にのせて’、ここになんとしてもみたい作品がでている。それは横山操(1920~1973)の‘雪原’、‘近代日本美術の煌き! 1963年’にも紹介したこの絵とお目にかかれる機会がやっと巡ってきた。
実際にみてみると図版ではわからないところらいくつもある。雪原の土色にみえるところは金箔が施されており、中景、遠景の細い木々にはところどころプラチナが塗られている。そして、画面上部の一番遠いところはすべて墨のたらしこみで塗りつぶされている。
画面構成についてはこれまで感心しているところを本物で確認した。木々の枝の向きからここでは風は右から左に吹いていることがわかる。手前右のところに濃い墨で描かれた最も大きな木を何本も斜めにならべ、積もった雪の表面にその影をうすくつけている。
こうした細部の表現にも惹かれるが、広い空間を感じさせる木々の塊の配置の仕方に見入ってしまう。右の木々の大きな塊は斜めのラインで間に細長い水たまりを挟みその向こうの木々につなげられ、アクセントとなっている水たまりは上にむかって層をつくるようにのび、左右の木に視線がまんべんなくいきわたるのをたすけている。
サンリツ美から帰ったあと、長野方面はこの次この‘雪原’をみるため佐久市をめざすことを決めていた。ところが、運よく五浦美で遭遇したので佐久行きは消えた。
ほかの作品はさらさらとみた。足がとまったのは一度みたことがある平山郁夫(1930~2009)の‘仏教伝来’、広田多津(1904~1990)の‘立像’、千住博(1958~)の‘ウォーターフォール’。これらはオマケ感覚、長いこと対面を待った‘雪原’と会えたのだから数が少なくても気にならない。