アメリカの美術館をまわっていると当然のことながらヨーロッパでも名の知れたアメリカ人画家の作品によくお目にかかる。ホイッスラー、サージェント、ホッパー、ホーマー、そして女性ではカサット、オキーフ。このなかでどこの美術館へ行っても展示されているのが印象派のカサット(1844~1926)、今横浜美ではそのカサットの回顧展(6/26~9/11)が開催されている。
昨年12月ボストン美を訪問したとき必見リストの上位にいれていたのが‘桟敷席にて’、長年の夢がようやく叶った。絵の存在はずいぶん前から知っていたのに日本で何回となく行なわれたボストン美蔵の印象派展に一度も出品されない。その理由が絵の前に立ってよくわかった。この絵がアメリカ人に人気のある傑作だから貸し出したくなかったのだと。
その絵と横浜で再会した。やはりとびぬけていい。この絵に惹かれるのは自分もこの劇場のなかにいるような気分になるから、ふいと横をみるとすぐ近くの席にいる美しい女性がオペラグラスでじっと舞台を見ている。芝居や踊りの楽しい雰囲気をこの女性と共有できる、これだから劇場通いはやめられません。
カサットというとこの桟敷席と母子像がすぐ思い浮かぶが、母子像のイメージはアメリカの美術館巡りを3度体験したことでできあがった。訪問したのはシカゴ美、ボストン美、フィラデルフィア美、ワシントンナショナルギャラリー、メトロポリタンのビッグ美術館だが、今回の回顧展でほかの美術館にもいい絵があることがわかった。足が思わずとまったのが‘果実をとろうとする子ども’と‘家族’。
そして、2013年にでかけたフィラデルフィア美で強く印象に残っている‘母の愛撫’も心をとらえて離さない。赤ん坊や子どもが登場する絵で大変魅せられているのはフィレンツェにあるラファエロの‘小椅子の聖母’、この絵とカサットの作品が響き合い、そしてカサットの母子像は日本の喜多川歌麿や上村松園ともむすびつく。3人のコラボに思いをめぐらすと絵画をみる楽しさが倍増する。