ホントホルストの‘キリストの降誕’(1620年 ウフィツイ美)
2001年の秋から翌年の2月にかけて東京都庭園美と愛知県の岡崎市美術博物館でカラヴァッジョ展が開かれたとき、カラヴァッジョ(1571~1610)の作品だけでなく、カラヴァッジョの画風に影響をうけた画家たち(カラヴァジェスキ)の絵も並んだ。
この画家たちのなかには見事な腕前を発揮するものもいれば、アべレージだなというのもいた。このときとくらべると今回、西洋美から声のかかったカラヴァジェスキは粒が揃っている。ナポリ出身のカラッチョロ(1578~1635)は岡崎市美でもお目にかかったが、カラヴァッジョのようにきりっとしまった美形のモデルが登場する。だから、‘聖家族’に描かれた聖母マリアのまなざしに思わず足がとまる。強い明暗法といい美形の女性といいぱっとみるとカラヴァッジョの絵かと錯覚する。
カラッチョロはカラヴァッジョと年が7歳しか離れていないからカラヴァッジョにすごく近い感じがするが、20年くらい後に生まれた画家たちはカラヴァッジョの光の描写をしっかり消化し自分流のリアリズムにみちた絵画空間を生み出している。お気に入りはユトレヒト派のホントホルスト(1592~1656)とアルテミジア・ジェンティレスキ(1593~1654)。
会場をまわっていて大半の絵は息を呑んで緊張した面持ちでみているからホントホルストの‘キリストの降誕’の前では心も肩もほぐされる。赤子をみている左の2人の女性の笑顔がじつにいい。赤ちゃんはどこで生まれたってみんなから愛され祝福される。本当にいい絵をみた。
大きな収穫だったのがジェンティレスキの‘悔悛のマグダラのマリア’、この最強の女流画家にはカラヴァッジョ同様200%心を奪われている。回顧展に遭遇することを夢見ているがその可能性は小さそう。このマグダラのマリアの肌の表現はカラヴァッジョ以上に生々しい。あまり長く見ていると心がザワザワするので隣の作品に移動した。
ラ・トゥール(1593~1652)はカラヴァッジョの画風から大きな影響を受けてはいるが、レンブラント同様ビッグな画家だからカラヴァジェスキというようにアンカリングしてみてはいない。‘煙草を吸う男’は光の画家ラ・トゥールの魅力が存分にうかがえる名画。ケンスケさんに教えてもらったプラド美でのラ・トゥール展を6月のはじめに大ボス展と一緒にみることにしている。とても楽しみ。