来月から東近美ではじまる安田靫彦(1884~1978)の回顧展(3/23~5/15)、ここ数年東近美で行われる日本画家の回顧展はもう完璧といっていいほどすばらしい作品が揃うのでいやがおうでも期待は高まる。
過去2回、安田靫彦展をみる幸運に恵まれた。最初が名古屋にいた1994年(愛知県美)、そして2009年には茨城県近美の没後30年展も足をのばした。今回の関心はこれまでみた作品にどれだけ新規の作品が加わるか。果たして?
回顧展の目玉はいつも決まっている。代表作の‘黄瀬川陣’、描かれているのは源頼朝と義経が再会する場面、歴史的な一瞬だが二人は大げさにではなく少し緊張して静かに心を通わせる。余白を大きくとった画面構成なのでこの場面に自分も立ち会っているような気分になる。とくに目を釘づけにさせるのが一寸のすきもない描線と鮮やかな色彩で精緻に描写された兜や鎧、古典画の魅力が強く感じさせる傑作である。
小倉遊亀(1895~2000)の‘観世音菩薩’は気持ちがとても軽くなる仏画、こんな明るい表情をした仏さんなら悩み事をしゃべるのは馬鹿らしくなる。‘最近、美味しい料理を食べさせてくれる店をみつけたんだが、知りたい?’なんてつい軽口をたたいてしまう。
宇田荻邨(1896~1890)の作風に魅せられているのはフラットで装飾的なところ、‘林泉図’は一見すると子どもたちが木や岩や葉っぱのかたちを切り取った色紙をぺたぺた貼ったような感じ。村上隆の‘五百羅漢図’も基本的にはこの絵と同じように描かれている。
川の流れを表す胡粉と緑の小鳥が目に飛び込んでくる‘山泉’は松林桂月(1876~1963)の作品、あの月と光の画家はこんな花鳥画も描いていた。