海外にある有名な美術館の場合、その所蔵品が美術本に載っていることが多いので必見リストには限られた情報ではあるがレビューしたものを見落とさないようにして一点々書きとめている。鑑賞時間が短いときはこの事前準備が館内を効率的にまわるのにとても役立つ。
ところが、ときどきこのリストに載ってない想定外の作品がひょいと姿を現すことがある。それはフィラデルフィア美が所蔵していたとは思ってもみなかったクリムト(1862~1918)の‘婦人の肖像’、これはクリムトの亡くなった年に描かれたもので婦人は顔だけは仕上がっているがほかは未完成。
この想定外のクリムト、どこかでみた覚えがある。大急ぎで隣にあったシーレの絵と一緒にカメラにおさめた。日本に帰ってクリムトの本をチェックしたら、TASCHEN本の最初の頁に載っていた。だが、絵を所蔵しているのはドイツのリンツにある美術館。
さて、どういうことだろうか。本が出版されたのは2006年、それから9年経っているのでこの間にフィラデルフィア美が購入したのだろう。2013年の1月にここを訪問したときは展示されていなかったから、ここ数年のうちにコレクションに加わったのかもしれない。TASCHENにでてくくる作品がみれたのは幸運この上ない。
館内をなかば走っているような鑑賞の仕方だが、狙いの作品以外で思わず足がとまるものがある。日本でお目にかかったマティス(1869~1954)の‘青いドレスの女’の磁力はそれほど強力。この絵は大のお気に入り。青いドレスの背景の赤や黒は平面的に描写されているので床面なのか後ろの壁なのかわからなくなっているが、無駄なものをそぎ落としたスキットした構成が女性の美しさを一層引きたてている。
デ・クーニングの‘座る女’は3年前、ワシントンのハーシュホーン美などでみた目が三角だったりぎょろっとした激しい女とは異なり写実的でおとなしく描いている。同じタイプの作品を今回メトロポリタン美でも出会った。これはデ・クーニングのひとつの発見。
フランケンサラー(1928~2011)はお気に入りの女流画家。鑑賞した作品の数は両手にも足りないが、その柔らかい色調で画面を構成する抽象表現主義の技法は心をじわーっとゆすぶる。この‘白いサルビア’をしばらくいい気持でながめていた。