絵画をみる回数がふえるにつれ、鑑賞した作品が時代や画家をこえてくっつくことがある。松岡映丘(1881~1938)の‘伊香保の沼’に登場する女性の姿をじっとみていると、すーっと美人画家の鏑木清方(1878~1972)の描いた妖艶な人魚が現れてくる。沼に足をいれてものうげにながめる女の視線の先にはとてもではないが入れない。
この‘伊香保の沼’の女性がつくるポーズとちょっと似ているのが‘婦女図’、描いたのは京都出身の中村大三郎(1898~1947)。この絵は江戸時代の初期に描かれた風俗美人画の近代版という感じ。顔は卵のように丸くて目も大きい。惹かれるのはまだある。花をもつきれいな手、ついじっとみてしまう。
和田英作(1874~1959)の‘野遊び’はまだ2度しかお目にかかってないが、まるで青木繁の作品のように日本の古代社会にタイムスリップしてような気分になる。3人の女性は色鮮やかな花々に囲まれて自然を満喫するかのように目の前を静々と進んでいく。この絵で和田英作に開眼した。
小杉放菴(1881~1964)の回顧展が今年の2月、出光美で開催された。そこでとくに印象深かった作品が大作‘湧泉’、これは放菴が洋画家だったころの作品で東京大学大講堂を飾った壁画の習作。ほおずえをついている女性は彫刻的な造形で豊満な体のわりには顔は小さく円の型をそのまま線でなぞったよう。その大きな存在感に圧倒され声を失ってみていた。