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Channel: いづつやの文化記号
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働くことの意味  実験に使われたシシュフォスの神話!

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Img_0001_2     マイケル・マクローン著‘ギリシャ・ローマ神話’(00年 創元社)より

Img_2     ティツィアーニの‘シシュフォス’(1548~49年 マドリード プラド美)

ギリシャ神話に魅せられており、定期的にこれまで読んだ本の頁をぱらぱらめくったり物語が絵画化されたものをながめている。ある物語が行動経済学の‘不合理だからすべてがうまくいく’(ダン・アリエリー 10年 早川書房)にでてくるので今日はそのことを。

ダン・アリエリーは行動経済学の分野で活躍しているデューク大学の教授(NY生まれのイスラエル人)。‘予想どおりに不合理’に次いで上梓した‘不合理だからすべたがうまくいく’のなかに働くことの意味を解明するために行われた実験が紹介されている。

実験協力者は学生でレゴのバイオニクル(小さな戦闘用ロボット)を組み立てて報酬をもらう。学生会館に張り出された‘レゴでこづかい稼ぎをしよう!’をみて組み立てが大好きな学生たちが集まってきた。いつもように参加者は条件の違う2つのグループに分けられる。‘意味あり’条件と‘シシュフォス条件’

‘意味あリ’条件ではバイオニクルを1体組み立てるたびに2ドルもらえる。報酬は11セントずつ減っていく。時間制限なし。‘シシュフォス’条件のほうはちょっとおもしろい。報酬の金額も時間制限なしも同じ。二つのグループのちがいはこう。

‘意味あり’では参加者のジョーが40個のピースを正確に組み立ててつくったロボットは1体、2体とできあがると台に置かれる。これに対して‘シシュフォス’ではチャドが1体をつくって2体目にはいると、実験者のショーンは1体目を分解する。

チャドはこれに驚いて‘ち、ちょっと、なに壊してんんだよ?’という。すると、ショーンは‘なあに、ただの手順さ、きみがもう1体バイオニクルをつくるときのために、ばらしておかないとね’と説明する。

はたして、ジョーは10体つくり15ドル5セントをゲットしていい気分で帰っていった。一方チャドは4体つくって7ドル34セントを受け取った。ショーンがこの仕事を楽しんだかと尋ねるとチャドは‘そうだな、レゴで遊ぶのは好きだけど、この実験はそう楽しいってほどじゃなかった’と肩をすくめていった。

ジョーはこの仕事はその場かぎりのものであることはわかっていたが、仕事に意味があると思い楽しみながらバイオニクルをつくり続けることができた。ところが、チャドは自分の作品が少しずつ解体されていくのを見せつけられ、自分の仕事に意味がないと思わざるをえなかった。

この実験は仕事の喜ぶをやる気に変えられるかどうかは自分の仕事にどれだけ意味を見いだせるかにかかっているということを示している。

コリントスの王、シシュフォスは神の怒りにふれ冥界で巨大な岩を転がして険しい丘の上まで運び上げるように命じられる。ふつうならこれだけ大きな岩だから50個くらい運べばまあこらえてやろうかとなるが、ギリシャの神はそんなのは罰のうちにはいらないと気が遠くなるような罰を与える。

丘のてっぺん近くにくると岩をポンと押し、ふもとにまで転がり落とす。ありゃー、また一からやり直し、‘こんな無駄な骨折りは勘弁してよ!’とシシュフォスは未来永劫呟くことになる。


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