パリがドイツ軍に占領されるのは1940年、パリにとどまって制作活動を続ける芸術家もいたが、多くのシュルレアリストたちはパリを離れるかアメリカへ亡命した。
重苦しい生活を強いられるなか、ルオー(1871~1958)の描いた‘貴族的なピエロ’は名前のとおり天使のようなピエロ、卵形の顔にアーモンド形の大きな目、この端正な顔立ちが心を打つ。ルオーの作品は2000点以上にもおよぶがその3分の1がサーカスを描いたもの。いろいろなタイプのピエロをみたが、このホワイトピエロはお気に入りの一枚。
ミロ(1879~1983)は1940年1月から1942年の9月にかけてバルセロナやマジョルカ島へ逃れ、その間28点からなる連作‘星座’を制作した。その一枚が‘恋人たちに未知の世界を明かす一羽の美しい鳥’、ミロの大ファンとしてはこのシリーズをみないとあの世へ行けないのだが、今のところ幸運はまだやって来ない。
星と音符と目玉が画面にびっちり描きこまれた連作のなかでみたくてしょうがないのが5点ほどある。どれも親しみのもてるファンタジックな世界だが、‘美しい鳥’の印象を決定づけているのは右下のライオン?どうしてここにライオン?星座とライオンがどうつながるのか、シュール的なナゾはずっと解けないまま。
ピカビア(1879~1953)の享楽的な雰囲気につつまれた‘ブルドッグと女たち’はマリリン・モンローのイメージを彷彿とさせる。ピカビアは写真雑誌に載った女性のピンナップ写真を用いてこの絵を制作した。女性の引き立て役のブルドッグも同じく写真からの流用。こういう手法は後にポップアートのウェッセルマンの作品に受け継がれていく。
マン・レイ(1890~1996)、ダリは1940年にアメリカへ渡った。‘女とその魚’は裸婦と魚の親和性がいいので絵のなかにすんなり入っていける。マン・レイの真骨頂は写真にあることは確かだが、そのシュールな気分は絵にも存分に発揮されている。