エルンストの‘花嫁の着付’(ヴェネツィア グッゲンハイム美)
マティス(1869~1954)の絵をいくつもみたという思いが強いのはパリのポンピドーとサンクトペテルブルグのエルミタージュ、昨年横浜であったプーシキン美にもシチューキンの蒐集したいい絵がでていた。
ポンピドーにある‘ルーマニアのブラウス’は人物画のなかではベスト3にいれている。人体を単純化することにかけてはマティスは抜群の才能を発揮する。展覧会にはときどき素描が過剰すぎるほど多くあり間のびすることがあるが、マティスについてはそういう感情が起きず油彩と同じ感覚で見入ってしまう。のびやかな線描が女性のはつらつとした姿をいっそう魅力的にしている‘ルーマニアのブラウス’、まさに傑作中の傑作。
ミロのひょうきんな絵を連想させるのがカンディンスキー(1866~1944)の‘空色’、パリ時代のカンディンスキーは想像力が幾何学的なフォルムからやわらかく丸みをおびたものにも広がり、より自由で楽しい世界を生み出した。この絵はミトコンドリアやアメーバなどの微生物たちのお祭りに立ち会っているみたい。
ヴェネツィアにあるグッゲンハイム美へは2度でかけた。ここのコレクションで気になる絵が心のなかを占領しても、イタリアは遠いからすぐ本物がみれるわけではない。エルンスト(1891~1976)の‘花嫁の着付’を必見リストに入れたのは2010年2度目の訪問のとき。真っ赤なマントに身をつつんだ鳥女とその傍らで槍を手にして仕えるボデイガー役の鳥男、この緊張感の漂う画面を息を吞んでみていた。これは怖ーいシュール画。
ホッパー(1882~1967)の‘ガソリンスタンド’はアメリカ映画でよくみかける光景。でも、この雰囲気はとても物寂しい。給油するクルマはいないので余計にそう感じる。どういうわけか、この絵をみると映画‘チャイナタウン’を思い出す。