ダリの‘海辺に現れた顔と果物鉢’(1938年 ワズワース・アテネウム美)
Bunkamuraで開催中の‘進化するだまし絵展’(8/9~10/5)を楽しんだ。世田谷美のジャポニスム展は2点買いの展覧会で、こちらのだまし絵展は1点買い、お目当ての作品が1,2点しかなくてもそれが特別魅せられるものであれば俄然でかける、美術鑑賞は量より質を重視するのが昔からの基本スタンス。
だまし絵展での期待はただ一点、アンチンボルド(1526~1593)が1566年ころ描いた‘司書’。多くの本を使って人間の上半身を形づくったこのへんてこな絵の存在を知ったのはTASCHENのアートシリーズを手にいれたとき。鬼才アンチンボルトには大いに関心があるから、この本に載っているものは1点でも多く対面したい。
しかし、この作品ははなから諦めざるをえない。なにしろ絵があるのはスウェーデンのスコークロステルというお城。どう考えても行けない。前回のだまし絵展に登場した‘ルドルフ2世’もこの城の所蔵だったが、Bunkamuraが抜群の企画力を発揮してくれ日本での鑑賞が実現した。そして、思った。‘2度目の奇跡は起こらないな、司書は本だけで楽しもう’
ところが、奇跡がまた起こった。目の前に本を抱えた‘司書’がいる。この絵で200%感心するのが頭の髪に開いた本を用いていること。一頁々が髪らしくみえるから不思議。また、下の付箋を手の指にみせているところもおもしろい。
ここでも大きなおまけがあった。アンチンボルドがなんともう1点でている。TASCHENに収録されてない‘ソムリエ’、大阪市がこの作品を手に入れていたとは!美術館は何年経ってもできないのに作品だけはせっせと買い込んでいる。
作品の前で思わず声がでたのがダリ(1904~1989)の‘海辺に現れた顔と果物鉢’、これは驚いた。Bunkamuraは本当にいい美術館。この絵はダリの追っかけ画リストに入れているが、本物に出会う可能性は極めて小さい。そんな絵がダリの回顧展でなくだまし絵に現れた。ミューズに感謝、真ん中の顔と右上の犬はすぐわかったが、左のうさぎは何度見てもダメだった。
マグリット(1898~1967)は3点あったが、‘白紙委任状’が再登場。これはお気に入りの作品。木々の間を女性を乗せた馬が走っているが、目の錯覚でこういう風にみえることがあるかもしれない。マグリットのシュールな絵はダリの夢の世界とは違ってこういう錯覚から生まれてくることも多い。
今回不思議でならなかったのがヒューズ(1939~)の‘生き写し’、どんなナゾかはみてのお楽しみ!