少年時代の源義経、すなわち牛若丸は小さい頃男の子にとっては金太郎同様、強い少年の象徴だった。その強さを見せつけるのが武蔵坊弁慶との戦い。牛若丸は五条大橋で千本の太刀を奪う悲願をたてた弁慶に出会う。美少年をみて弁慶は最後の一本は簡単にゲットできると楽勝モード。ところが結果は惨敗。その願いは達成できなかった。
牛若丸の動きは俊敏で生来の運神経の良さを発揮し、弁慶の長刀を欄干に片足立ちしさらりとかわす。歌川広重(1797~1858)の‘義経一代記之内 九回 五条の橋に牛若丸武蔵坊弁慶を伏す’はこの場面が描かれている。見栄えのする決闘の動きを橋を斜めにすることで最高のクライマックスシーンにみせる構図が見事。
これに対し、物語絵なら俺に任せろと描く絵師のテンションが高原状態なのが歌川国芳(1797~1861)の‘落陽五条橋図’。弁慶の迫力はガチに激しく、猛者たちをうち破り999本の太刀を奪った腕前は伊達ではない。この勝負、どっちが勝つかわからないほど緊迫感につつまれ牛若丸は真剣そのもの。
でも、最後は鈴木春信(1725~1770)の‘牛若丸と弁慶’に描かれるように‘どうだ参ったか、弁慶!’と牛若丸に軍配があがる。これは大英博の所蔵するお宝春信の一枚。2002年、広島で仕事をしていたとき運よく遭遇した大回顧展(山口県萩美・浦上記念館)でお目にかかった。春信は本当に上手く描く。そして、河鍋暁斎(1831~1889)の‘牛若丸図’にも魅了される。すくっと立ち横笛を奏でる凛々しい若武者の姿は映画のワンシーンをみるよう。