北野恒富の‘紫式部’(1926~1930年頃)
今年の大河ドラマは昨年の‘光る君へ’同様、定番の合戦シーンがない江戸出版
界の天才プロデュ―サー、蔦屋重三郎の物語にスポットが当てられている。
毎週欠かさず‘べらぼう’を楽しんでいるが、蔦重は浮世絵の喜多川歌麿や写楽
と深く結びついているから、これから出てくる話のなかで美人大首絵や役者
絵がどんないきさつで生まれたのかは俳優のリアルな演技によってビシビシ
胸に突き刺さっていくのだろうと今から期待している。
紫式部の‘源氏物語’ついては小説を読んでおり、また絵画化された絵巻を徳川
美や五島美で熱心に鑑賞してきたから、昨年の大河ドラマをずっとみていたら、
いろんな情報が追加され絵巻をより深く楽しめるようになっていたかもしれ
ない。番組によくチャンネルを合わせていた隣の方の話では視聴率も高かった
らしい。一緒にみておけばよかったなと思ったりもしている。
鈴木春信(1725~1770)の‘五常 信’では石山寺で源氏物語の想を練ったという紫式部の姿が描かれている。五常とは儒教が説く、人の常に守るべき五つの徳目、‘仁、義、礼、智、信’のこと。信は嘘でない真実、誠実という意味だが、この画題に紫式部の逸話が選ばれているのは‘源氏物語’が宮廷貴族の栄華と矛盾を‘もののあわれ’というテーマのもとに描きだしている点と関係しているかもしれない。
肉筆美人画で絶大な人気のあった勝川春章(1743~1792)の‘雪月花’の‘月図’は紫式部が描かれている。もう大変な美人で、MOAでお目にかかって以来魅了され続けている。昨年、大倉集古館で開催された‘浮世絵の別嬪さん’で再会した。まさに肉筆美人画で‘最高の瞬間!’だった。菊池契月(1879~1955)と北野恒富(1880~1947)の‘紫式部’は上村松園の‘伊勢大輔’を連想させ、ついうっとりながめてしまう。