‘青楼古今発句合 闇の夜も’(1781~83年頃 慶應義塾)
絶品の肉筆美人画に魅了され続けている浮世絵師、勝川春章(1743
~1892)がなんと大河ドラマ‘べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~’の第10話に
登場した。蔦重の企画した吉原遊女の絵本を北尾重政(1739~1820)
との合筆でつくるのである。これは豪華な絵本で座敷や庭先で四季折々の
風物に親しむ遊女たちがリラックスモードで描かれている。
‘春夏’の上巻、‘秋冬‘の中巻、それに漏れた遊女たちと遊女たち自身の俳諧を
集めた‘員外’の下巻の全三巻で構成されている。鈴木春信(1725~
1770)の影響を受けた二人の美人画はよく似ているが、春と秋を重政、
夏と冬と員外を春章が担当している。盲人の鳥山検校に1400両(1億
4000万円)で身請けされ、吉原遊郭をでていく花魁瀬川は重政の‘春’の巻
で右に描かれている‘瀬か八(瀬川)’。
春章が描いた‘夏’の巻では遊女たちは文をしたためたり、琴、三味線、尺八の
トリオ演奏に興じている。この場面だけをみれば源氏物語絵巻をみているの
と変わりなく、高級な趣味のサロンの雰囲気が漂っている。そして、‘冬’の巻
は着物を着こんだ3人が冬の寒さを実感して感じ。
‘青楼古今発句合 闇の夜も’で春章は禿を従え龍の絵柄で装飾された豪華な衣
裳に身をつつんだ花魁が優雅に歩く姿を描いている。思わずみつめてしまう。
ギリシャのマノスコレクションを披露する特別展が以前開催され、その摺り
のいい歌麿の美人大首絵に仰天したことがあるが、そこに春章の‘吉原八景
京町の落雁’も飾られていた。吉原の景色と廓の風俗を取り合わせた趣向が
おもしろい。