水戸から東京に戻って来たあと、染織家志村ふくみさんの100歳を記念し
た特別展が行われている大倉集古館に向かった。作品が一部を除いて後期
(12/17~1/19)でがらっと替わったので2回目の出動となった。
来館者の大半は女性でその7割くらいの方が着物姿だった。
昨年の展覧会シーンの振り返りで、お気に入りの図録をとりあげ、この特別
展の図録(世界文化社)など4冊がいずれも作品の色がリアルに再現されて
いることにふれた。その特徴はじつは茨城県近美がつくった‘中村彝展’でも
実現されており、図録によって展覧会で受けた大きな感動がまたよみがえる
という以前とは違った展覧会鑑賞の楽しみが生まれている。すばらしい!
だから、ここに選んだ5点も前期の5点同様、本物の色の感じにかぎりなく
近い。
‘琵琶湖’シリーズの後期は琵琶湖の風景をそのまま映したような青のグラデ
ーションが心に響く‘空と湖’、緑と青の組み合わせがえもいわれず美しい‘奥琵
琶’、そして小さな三角形で表現された水鳥が印象的な‘鳰(にお)の湖’の3点。
いい気持でみていた。‘源氏物語’を主題にした連作では再会した‘若紫’の前に
長くいた。まるで光源氏に愛された高貴な女性,紫の上が現れてくるよう。
ふくみさんは文筆でも才能を発揮し、多数の著作を刊行している。リルケの
本を上梓したあとに生まれたのが‘柳の国’と‘悲歌’。心を鎮めてながめていた
。‘悲歌’はこげ茶色の濃淡だが、普通にこの色をみるとちょっと思い気分に陥
るが、今回それがなく深く威厳のある色に感じられた。詩人の石牟礼道子さ
んとコラボした新作能‘沖宮’で後期に並んだのは鮮やかな緋色に惹きこまれる
‘舞衣 紅扇’など3点。着物が好きな方は是非、大倉集古館へ!