レンブラントの‘聖ステファノの石打ち’(1925年 リヨン美)
2009年千葉市美で開催された‘大和し美し 川端康成と安田靫彦’展では美
術館がつくる一般的な図版とは違う、書籍タイプのものが求龍堂から出版さ
れた。内容が充実しているのでときどき読んでいる。そこに川端康成が映画
について語ったことが書かれている。‘映画はたった一瞬でいい、記憶に残る
シーンがあれば最高である’。昨年の末、感動した世界名作映画として選んだ
10点にもその記憶に残るシーンが勿論でてくる。その場面が聖書の話を思
い起こす作品が2つあったので、そのことを少しばかり。
1953年にフランスとイタリアの共同で製作された‘恐怖の報酬’にこれまでたくさん観てきた映画でお目にかかったことのないハッとさせられるシーンが最後のほうにでてきた。油田で起きた大火災を消すためにニトログリセリンを現場に届けるトラックの運転手マリオ(シャンソン歌手のイヴ・モンタン)が相棒の老人ジョーに大きな石を投げつける。それがもろに顔にあたり老人はぐらっとくる。当たり所が悪ければ顔の骨が折れ大怪我をするところ。日本の映画でもいじめられっ子が仲間に石を投げられて泣くシーンをみるが、これは子どもたちの世界。大人たちが気にくわない相手に石をストレートにがつんとぶつける場面に遭遇したのははじめてなので、オイオイ凄い残虐なことをするな、と思った。
そして、すぐある絵画が思い浮かんだ。それはレンブラントの描いた‘聖ステファノの石打ち’。聖ステファノはエルサレムで説教し奇跡を行ったが、ユダヤ教の律法をおかしたとされて、石打ちという残酷な刑で殉教した。まだ本物とは縁がないが、この石打ちの刑の暴力性が目に焼き付いているので、マリオの石投げと聖書がすぐ結びついた。ジョーは前を走るもう一台のトラック(同じく2人のコンビ)がニトログリセリンの爆破で吹っ飛んだので、自分たちのトラックもちょっとした揺れでニトロが爆発し同じような事態になるのではと頭がパニックになり、トラックから飛び出し逃げてしまう。マリオはあと少しで現場に到着し2000ドルが手に入るのだから、ここで怖気ずくにはいかない。相棒の老人にも一緒に頑張ってもらわないと困る。だから、鬼になってジョーに石を投げて仕事に戻させようとする。監督は素手で殴るのではインパクトが弱いと思い、石打ちの刑にしたのかもしれない。