‘青い曲’(1956年)
‘虫の劇場’(1957年)
‘パーマ屋さん’(1969年)
‘失敗’(1972年)
‘しずくが横綱になるまで’(1975年)
いろいろなタイプの展覧会をみていると自分史のなかに刻まれているエピソード記憶を蘇らせてくれる画家に出会うことがある。たとえば、雑誌‘週刊新潮’の表紙絵で知られた谷内六郎(1921~1981)。雑誌の発売を知らせるCMをTVでみることはあっても、当時社会人ではなかったから手に取って絵を楽しんでなかった。
その膨大な数の表紙絵を実際にみる機会が訪れたのは2006年横浜そごう美で開催された‘没後25年 谷内六郎の軌跡 その人と仕事’。苗字の谷内を‘やない’と呼んでいたが、あるとき‘たにうち’になった。そして、その2年後横須賀美でお目当ての特別展をみたあとミニ谷内六郎展が行われているのに気づき、52点お目にかかった。美術館が2007年に開館したとき谷内六郎の作品を常時展示する専用の部屋がつくられており、そのコレクションのなかから123点を選んだ図録が用意されている。この際と思って購入した。これにより、谷内六郎の世界が大きく広がった。
表紙絵は昔の日本人の素朴な暮らしが可愛い子どもたちによって描かれているというイメージ。大半はそうなのだが、仰天したのはとてもシュールな作品が登場すること。‘青い曲’は鯨の歯とピアノの鍵盤がダブルイメージになっている。マグリッドがこれをみたら裸足で逃げるにちがいない。‘虫の劇場’では柱の照明に集まる蚊や昆虫がなんと女の子が踊る姿に変わっている。‘パーマ屋さん’でもシュールな楽しみに満ちている。
絵画作品で時間の要素が入ったものはあまりない。‘しずくが横綱になるまで’は葉っぱにたまった白いしずくが上から下に落ちるたびにだんだん大相撲の横綱になっていく。じつにおもしろい発想。そして、‘失敗’ではボールで植木鉢を壊した少年が周囲から集まる怖い視線におどおどしている。この内面描写にもはっとさせられる。