ここ数年、クリーンヒットが続く東京ステーションギャラリーで昨年‘大坂の
日本画’展が開催された。さて、大阪で活躍した日本画を何人知っているか。
正直なところインプットされているのは2017年千葉市美で回顧展があっ
た北野恒富(1880~1947)しかいない。だから、楽しみが削がれる
リスクが半分くらいあった。ところが入館すると、その懸念はすぐ消え
‘三都物語’の一角をになう大阪にも魅了される絵を描く画家がたくさんいる
ことがわかった。
千葉での回顧展でいい絵をたくさんみたお陰で開眼した北野恒富(生まれた
のは金沢)は残念なことに図録の表紙に使われている‘紅葉狩’は所蔵する中之
島美のみの出品だったため、見逃した。こういう目玉の絵が現れないとガクッ
とくる。でも、左の美形の女性が同じく中之島にある‘護花鈴’に描かれている
女性とよく似ているので持って瞑すべしとした。
恒富は後輩の画家たちを支援し教える大阪の大御所的な存在になったが、その
弟子の一人が女性画家の島成園(1892~1970)。この特別展では
21歳のとき4人の少女を描いた‘祭りのよそおい’が最後の部屋にどーんと飾
られていた。直感的にこれは‘最高の瞬間!’を味わっていると思った。着物の
斬新な色使いと柄に強く惹きつけられる‘影絵之図’は東京では展示されなかっ
た。小さい頃影絵で遊んだことが懐かしく興味深くながめていた。浮世絵と
かこういう風俗画とつきあっていると自分史の断片がひょんなことから浮き上
がってくる。
京都市生まれの梶原緋佐子(1896~1988)は本物にお目にかかったの
は片手くらい。美人画というより普通の女性の生活感が強く目にとびこんでく
る絵でイメージがつくられている。‘赤前掛’は縁側に腰をおろした若い茶店で
働く女が描かれている。‘ちょっと疲れた’という風でぼんやりしている。当たり
前で自然な表情なので、つい声をかけたくなる。緋佐子27歳のときの‘老妓’
も鑑賞欲を刺激する。