ピカビアの‘ハンサムなポーク・ブッチャー’(1924年 テート美)
‘キャッチ・アズ・キャッチ・キャン’(1913年 フィラデルフィア美)
‘ウドニーと再会’(1914年 MoMA)
マン・レイの‘ラ・フォーチュン’(1938年 ホイットニー美)
絵画のどこに楽しさを求めるかは人夫々、超絶技巧の写実表現にのめりこむ
人もいれば、色彩と形が美しく絡み合った抽象美の世界から離れなくなった
人も数多くいる。何が描かれているのがすぐにわかる作品がある一方で、
具象的なイメージとは直接的には結びつかないのにみてて惹きこまれるも
のもある。絵画理論に過度に深入りせず、視覚体験を重ねていくうちに、抽
象絵画やシュルレアリスもほどほど楽しめるくらいになれればいいなと思っ
ている。
美術本に載った作品を何度もみているうちにすごい才能の持ち主であること
がわかった画家が何人かいる。そのひとりがフランスのフランシス・
ピカビア(1879~1953)。めまぐるしく作風が変容し、一か所にと
どまらないのはピカビアの真骨頂。とにかくいろんな絵が描けるのがすごい
ところ。ロンドンのテートモダンでまだ縁がない‘ハンサムなポーク・ブッ
チャー’。妙にリアルさのあるシュルレアリスム画で、ピンク色をした男の
顔のまわりにプラスチックの櫛が描かれている。変な絵なのに、タイトルを
みるとあまり違和感がなく納得してしまうのが不思議。
これに対し、‘キャッチ・アズ・キャッチ・キャン’はキュビスムの影響が強くうかがえる作品。大工さんが木材をカンナで削るときにでてくる薄い木の屑をいつも連想してしまう。MoMAにある‘ウドニーと再会’はピカビアの一番のターゲット。ひとつ々のフォルムの塊が角々してなく柔らかく丸みを帯びている感じで立体的にみえる。ウドニーはピカビアがNYからヨーロッパに向かう大西洋航路の船で出会ったダンサー、キュビスムから離れてイタリア未来派を感じさせる作品になっている。
写真家として知られるフィラデルフィア生まれのマン・レイ(1890~1976)はNYで働きながら絵画を学び、20代半ばでデュシャンやピカビアとともにニューヨーク・ダダを興した。‘ラ・フォーチュン’はパリに滞在中の48歳のときの作品。そのころ信奉していたシュルレアリスムの影響が色濃く表れている。玉突きの台が空に浮かぶ雲にむかって斜めに突き出す感じがじつにいい。