‘アトリエⅡ’(1949年 ノルトライン=ヴェストファーレン美)
画家の名前は西洋美術が好きな人なら誰もが知っているのに、その作品をた
くさん集めた回顧展に縁がないという画家が何人かいる。そのひとりが
ピカソ(1881~1973)の盟友ブラック(1882~1963)。
ピカソの個展には何度も足を運んだが、なぜかブラックは一度も巡りあっ
てない。このキュビストの回顧展が開催されたことがあるのだろうか?展覧
会の図録が購入できる神田の古本屋にときどき寄ることがあるが、ブラック
のものには遭遇しない。
ブラックの作品はポンピドゥーとMoMAと強く結びついている。でも、
残念なことにみたのは所蔵作品の一部だけ。NYのMoMAでは美術本に載って
いる‘マンドリンを持つ女’とはまだ対面してない。黒塗りで描かれた横向きの
女は画面の大半を占める緑に浮き上がる姿に鑑賞欲を強く刺激される。
ポンピドゥーには大きな忘れ物がある。それは見ごたえのある‘二重奏 音楽
と瞑想’。ブラックは音楽好きだから、ピアノとかマンドリン、ヴァイオリン
などがふんだんに出てくる。左の女性の顔は横向きと正面向きを合体させ
る表現になっている。これは多視点を真骨頂とするキュビスムの人体表現で
あるが、おもしろみも感じらる描き方である。これとどうして出会わなかっ
たのだろうか。
パリではもう一枚どうしてもみたい絵がある。それはルーヴルのシュリー翼
2階の‘アンリ2世 控えの間’の天井に描かれている‘鳥’。ルーヴルで駆けず
り回って目の中に入れたのはダ・ヴィンチをはじめとるるルネサンス絵画や
ドラクロアの‘民衆を率いる自由の女神’などで、ここにブラックの絵がある
ことはまったく知らなかった。もっと美術館のガイドブックをしっかり読ん
でおくべきだった。こういうところに落とし穴がある。
ヨーロッパの美術館ではバーゼル美の‘水差しとヴァイオリン’をターゲットに
している。そして、ドイツのデュッセルドルフにあるノルトライン=ヴェス
トファーレン美が所蔵する‘アトリエ二Ⅱ’も是非お目にかかりたい。この美術
館の名作は日本で公開されたときにめぐりあい、ピカソの‘鏡の前に坐る女’が
目に焼きいている。ここはブラックもマティスの‘赤い室内、青いテーブルの
上の静物’もコレクションしているから、一度は訪問する価値がありそう。