上村松篁単独の回顧展は名古屋で仕事をしていた1996年に運よく巡り合
った。場所は懐かしい名古屋三越栄本店(今もある?)。そのあとは奈良市
にある松伯美の訪問や日本橋高島屋での三代展をみたので主要な作品はだい
たい目のなかに入った。今回出品されている13点はすべて松伯美が所蔵す
るもの。以前訪問したときは奈良近鉄線の学園前駅で下車してタクシーで
10分くらいで着いたが、この前に駅のすぐ近くにある大和文華館も訪問し
た。ともに名画がたくさんみれる人気の美術館だから、満ち足りた美術散歩
になった。
再会した‘熱帯花鳥’を夢中になってみた。目にとびこんでくるのは緑の背景に
浮き上がる赤い花。いかにも熱帯に咲く花という感じ。そこに体を丸めてと
まっている極楽鳥が視線を釘付けにする。実際にみた光景を描いているので
ないのに絵のタイトルが腹にすとんと落ちるのだから、すごい絵である。
松篁はこういう抽象画のもっている美を感じさせるところが大きな魅力。
‘青柿’や‘蓮’は余白をたっぷりとりモチーフをシンプルに表現する画面構成に
心は深く沈潜させられる。
松篁の息子の淳之さんはずっと応援しており、文化勲章を早くあげて!とず
っと思っていた。2年前受賞したので一安心。今回は20点でている。父の
松篁と同じ花鳥画を描き続けているが、淳之さんの鳥や生き物の絵は動きや
スピードがあるのが特徴。最高傑作は‘雁金’、これをはじめてみたとき、瞬時
に歌川広重の‘東都名所 高輪之名月’を思い浮かべた。
鳥たちへの限りない愛情が表現されている‘月の水辺’もつい長くみてしまう。
おおげさにいうと自然讃歌の気分を画家と一緒に共有しているようでいつま
でもこの光景をみていたくなる。そして、‘花の水辺Ⅱ’は肩の力がすっとぬけ
て心が安まる。毎日鳥たちの動きを見続けているので、親鳥の子鳥を気遣う姿
をこんなに上手く描けるのだろう。淳之の優しい心根がそのまま表れている。





