‘ジャン・コクトー’(1916年 ジュネーヴ プティ・パレ美)
画家の評価は存在を知ったときからずっと高いまま思い入れが深まっていく
ことがある一方で、はじめはさらっとみていたのに回顧展に巡り合ったのを
きっかけに、画家のイメージがプラスの方向に大きく上昇しそれ以降軽くみ
れなくなるケースもある。エコール・ド・パリ(パリ派)のキスリング
(1891~1953)は後者の画家のひとり。2007年、横浜そごうで
スイスのジュネーヴにあるプティ・パレ美蔵の作品で構成されたキスリング
展に遭遇した。それまで、キスリングとのつきあいは単発的な鑑賞にとどま
り、大変惹かれる花の絵などにより作風はインプットされるものの、気持ち
がキスリングにぐっとむかうことはなかった。
その見方がこの回顧展で一気に変わった。若い頃住んでいたジュネーヴの
美術館にこれほどたくさんのキスリングがあったとは! 魅了される人物画
や風景画、花の絵にぐぐっと引き込まれたが、ほかの美術本に載っていて目
にとまった作品がいくつかこのとき出品されなかった。その絵が‘ジャン
・コクトー’と‘キキの半身像’。懐かしいジュネーブを再訪することがあった
ら、場所はイメージできるプティ・パレに寄ってみるつもり。
キスリングは1941年アメリカに亡命し、翌年旧知の間柄だった有名な
ピアニストで同じポーランド出身のルビンシュタインとハリウッドで再会し
た。そのとき描かれたのが‘アルトゥール・ルビンシュタイン、ネーラ、彼ら
の子ポールとエヴァ’。個人蔵だが、本物をみてみたい。明快な色調により
家族の絆の強さが表現されている。
2019年2度目の回顧展(東京都庭園美)に足を運んだとき、プティ・
パレ、パリ市近美など海外からやって来た作品と同じくらい質の高いキスリ
ングが日本の美術館にもいっぱいあることがわかった。たとえば、北海道立
美、名古屋市美、松岡美、ギャルリーためなが,サトエ記念21世紀美、
熊本県美、、、残念ながら東京では出品されなかった‘オランダの娘’と‘マル
セル・シュタインの肖像’はリカバリーを強く願っている。