‘弓矢を持つ美人’(1788~89年 山口県萩美・浦上記念館)
千葉市美で開催されている‘鳥文斎栄之展’の後期展示(2/6~3/3)を早速み
てきた。千葉への出動がこんなに機敏なのは世界で初めてとなる回顧展に強
く惹きつけられているから。お楽しみのど真ん中にあるのが横に長いワイド
スクリーンに描かれた作品。このスタイルは鳥居清長(1752~1815)
の独壇場と思っていたが、そうではなかった。鳥文斎栄之(1756~
1829)もまた清長と双子かと錯覚するくらいこのワイド画に傑作を連発
しているのである。すばらしい!
会期中出ずっぱりの‘貴婦人の船遊び’を再度長くみていた。この絵が飾ってあ
る部屋では後期にワイド画は全部で8点みられる。これは圧巻!内訳はボス
トン美蔵が‘貴婦人’を含めて4点、大英博、千葉市美、サントリー、東博の
ものが各1点。今、浮世絵好きの知人、友人にこの回顧展を推薦しまくって
いる。
動きのある絵では前期の‘茶屋娘見立雁金五人男’よりさらにスピード感がある
‘青楼万歳俄 七月盆おどり’に思わず足がとまった。つられて踊りたくなる
気分。まるで洛中洛外図の踊りの場面をみているよう。これに対し、‘弓矢を
持つ美人’は緊張感がみなぎる前、肩をほぐすためにちょっと軽口をたたいて
いるところを想像させる。‘前回は全然ダメだったけど、今日は上手く当てる
からね’とかなんとか言っているのだろうか。
‘名所盃合 高輪’はじっとみていると目が点になった。ここにはじつにシュー
ルな表現がある。掛け軸から船に見立てた赤い盃が3つ飛び出してきており、
上では盃が朝日となり立体的に表現されている。鳥文斎がこんな意表をつく
おもしろい絵を描いてたとは、真にすごい絵師である。