ホイッスラーの‘シシリー・アレキサンダー嬢’(1872~74年 テート・ブリテン )
カサットの‘青いひじ掛け椅子の少女’(1878年 ワシントン国立美)
ルノワールの‘すわるジョルジェット・シャルパンテイエ嬢’(1876年 アーティゾン美)
バルテュスの‘目を覚ましたテレーズ’(1938年 メトロポリタン美)
本籍地アメリカ、現住所イギリスの画家、ホイッスラー(1834~
1903)は東京都美で1998年に開催された‘テート・ギャラリー展’が
きっかけとなりつきあいがはじまった。ここに出品された‘シシリー・アレ
キサンダー嬢:灰と緑のハーモニー’は今でも鮮明に記憶が残っている。モデ
ルの女の子は美術収集家で銀行家の8歳の娘。少女のまわりには菊の花があ
り蝶々が舞っているので演出はまるで日本画のよう。でも、当時はそこまで
関心がいかず、視線は美形のシシリーに集中。じっとみているとこの子は機
嫌がよくない感じでふくれ面をしている。図録を読むとその理由がわかった。
少女は70回もポーズをとらされ、もう我慢の限界にきていて泣きながら立
ち続けたらしい。
幼い子を描くのは大変なことは容易に理解できる。最初はじっとしているが、
だんだん飽きてきたり退屈になって落ち着きが亡くなる。それをあの手この
手で気をひかせ自然なポーズを続けさせる。画家も苦労が多い。カサット
(1844~1926)の‘青いひじ掛け椅子の少女’は女の子がだいぶ疲れて
きたようで心のバランスが崩れ、目の覚める青のひじ掛け椅子の前に足を投げ
出しちゃんと座っていない。でも、このありのままの姿が逆に見る者の気持ち
をこの子に向かわせる。
JR東京駅八重洲側から数分で到着するアーティゾン美にルノワール(1841
~1919)のとてもいい絵がある。それは特別展をみたあと通常展示を楽し
んでいると思わず足がとまる‘すわるジョルジョット・シャルパンティエ嬢’。
この子はルノワールのパトロンだったシャルパンティエ夫妻の長女で当時6歳。
足を組むポーズが様になっているのだから本物のお嬢ちゃん。日本でこんな
輝く女の子が見れるのだから幸せである。
オスロ国立美で念願のムンク(1863~1944)をみたのは2018年
の春。念願の‘叫び’と‘思春期’に遭遇し長年の思いの丈を叶えた。‘思春期’の裸
の少女に目力の強さを感じた。図版ではこれを意識しなかったが、本物の前で
じっとみられると緊張する。同じことがバルテュス(1908~2001)
の‘目を覚ましたテレーズ’にもいえる。大人のまなざしが半分入っている。