デパートのなかにある美術館で回顧展が開かれる場合、初日に画家や陶芸家
がいて図録にサインをしてくれることがある。今年80歳になる文化勲章受
章者の絹谷幸二(1943~)さんとは2006年に日本橋三越で開催され
た‘イタリアを描く 絹谷幸二展’ですこし話をした。NHKの日曜美術館など
で受けた印象そのままで気さくな人柄だった。図録をみるとイタリア留学時
代は細身のイケメンのイメージ、これにはびっくりした。
画伯の作品で最初に目に入ったのは1998年長野オリンピックの公式ポス
ター、とくに惹かれたのが‘スピードスケート’。おもしろいのは先頭を走っ
ているスケーターの口から‘ファイト’の吹き出しがでていること。こんな絵は
みたことない。なんだか戯画のよう。あとで作品といろいろ出会い、これが
絹谷ワールドのひとつの特徴だった。色彩豊かで文字の入ったエネルギッシ
ュな絵画をみていると腹の底から元気が出てくる。‘三美神’では口から花
を出している女神もいる。目鼻立ちの整った三つの顔をぐるっとまわってみ
るとティツィアーノの‘賢明の寓意’を思い出す。
イタリアの絵がたくさん飾ってあった回顧展で‘ヴェネツィア朝暘・希望’に思
わず足がとまった。運よく5回この街を訪問したので、サンマルコ寺院など
人気の観光名所に入ったときの感動がよみがえってくる。運河の真ん中のと
ころに‘Sallute’の文字がみえる。また出かけたいが、複雑な細い道に迷ってし
まいそう。アカデミア美は今も賑わっているだろうか。
‘自画像・夢’には絹谷さんのイタリア好きがそのままでている。大きく描かれ
た顔は夢に登場した人々で囲まれ、吹き出しには‘色即是空’,‘無’が鮮やかな色
で書かれている。イタリアの街にいても無の境地といったところだろうか。
日本の風景では富士山がモチーフになることが多い。とくに好きなのが‘日月
黄金海山富士山’。3年前,フジヤマミュージアムで友人の長嶋茂雄との合作
‘新世紀生命富士’をみた。