以前京都へ毎年のように出かけていた頃、立命館大のすぐ近くにある京都
生まれの堂本印象(1891~1975)の作品を展示している京都府立
堂本印象美にも足を運んだ。堂本印象の甥が抽象画家の堂本尚郎
(1928~2013)であることは知っていたが、作品にまず目を慣ら
したのは印象のほう。それが堂本印象美の訪問だった。
印象は福田平八郎を上回る二刀流の画家だった。日本画家としては仏画や
花鳥画や風景画でいい絵を描いており、これまで五島美、松岡美、三の丸
尚蔵館などでみる機会があった。そのなかでとくに印象深い作品は大作
‘木華開耶媛’。白い衣装をまとった美形の女性は日本神話に登場する女神。
春満開の桜の下に座る女神とくれば、もう心の琴線にふれうっとりして眺
めてしまう。女神を囲む木々の見せ方がとてもいい。
昨年末にサントリー美で開かれた‘京都・智積院の名宝’展に印象の描いた震
殿の襖絵が2点披露された。思わず足がとまったのが長谷川等伯・久蔵の
‘楓図’、‘桜図’を連想させる‘松桜柳図’。濁りのない明るい色彩と対象を大胆
にデフォルメした形象を息を呑んでみていた。‘婦女喫茶図’は智積院の襖絵
としては思い切ったテーマであり、モダン感覚の表現は意表をつかれたと
いう感じ。
人物画で印象はそれまでの画風をガラッと変え西洋画にぐっと傾斜していく。
こんな都会的な風俗画で似た感じがあるのは竹久夢二のほかはいない。そし
て、作風はさらに進化し抽象画に挑戦する。‘交響’はアンフォルメルの影響
が感じられるスゴイ作品。じっとみているとうとマーラーの交響曲が聴こえ
てくるよう。‘意識’はイギリスのニコルソンやオランダのモンドリアンの作品
が瞬間的に思い浮かぶ。こんな本格的な抽象画をうみだすのだから、たいし
た二刀流である。堂本印象に乾杯!