‘伊賀 耳付花入 銘 業平’(桃山16~17世紀 三井記念美)
現在、東近美で開催中の‘重要文化財の秘密’(3/17~5/14)は展示替
えがあるためもう一度出かけることにしている。明治以降に活躍した日本画
家のビッグネームの作品で重文に指定されているものがどっと出てくるだけでなく、黒田清輝をはじめとする有名な洋画もずらっと揃うので再度の出動もやむを得ない。東近美への好感度が高いのは人気の日本画家、例えば、菱田春草、上村松園、鏑木清方らの回顧展を完璧にちかい形で行ってくれることと強く関係しているが、もうひとつ忘れてならないのがやきもの展も行ってくれること。2017年には‘茶碗の中の宇宙 楽家一子相伝の芸術’、2019年には‘備前ー土と炎から生まれた造形美ー’があった。
釉薬をかけない焼き締めの器・備前焼の素朴な土味に大変魅了されている。
広島で仕事をしているとき、備前市へは2度出かけたから特別な思い入れが
あり、備前焼の特別展があれば欠かさず足を運ぶことにしている。備前焼の
枯れた味わいは茶人の間でもてはやされ、桃山から江戸初期頃まで水指、
花入、茶碗といった茶陶の名品が数多くつくられた。
東近美の備前展、そして2017年の‘茶の湯展’(東博)の両方に出品されたのが‘三角花入’。普通の円筒形の花入が大胆に歪むとともに裾や胴には箆でつけられた太い線が窪みとなって景色をつくっている。こうした作為を感じさせる造形が織部好みの美意識と合致し茶人たちを喜ばせた。‘緋襷水指’は侘びのイメージがする安定した形のため、胴の縦方向に流れる火襷(ひだすき)と呼ばれる緋色が心ゆくまで味わえる。偶然にできたものが侘びの精神にもつながるのがとても神秘的。
同じように釉薬を使わない伊賀焼は備前焼よりもっと個性が表現されたやきもの。2014年、銀座松屋で行われた‘没後400年 古田織部展’にすごい伊賀焼が登場した。見た瞬間、おおーとなった‘焼締芋頭水指’。どっしりとした胴をもつ大振りの水指で下の方がぷくっと膨れる形が目を釘付けにする。そして、伊賀焼の大きな魅力となっている表面を流れるビードロ釉の濃い緑。これは一生の思い出になる。また、‘花入 銘生爪’と‘耳付花入’の装飾的なところがなく自然のもつ力強さがそのまま表現された造形美も心をとらえて離さない。