国宝 ‘大井戸茶碗 喜左衛門井戸’(朝鮮16世紀 大徳寺孤篷庵)
‘奥高麗茶碗 銘 三宝’(重文 桃山17世紀 和泉市久保惣記念美)
五島美、出光美とともにやきもの展で目を楽しませてくれる根津美で
2013年に‘井戸茶碗展’が開催された。高麗・朝鮮王朝時代に朝鮮半島で
焼成された高麗茶碗のひとつである井戸茶碗はよく通っている東博の平常展
でもお目にかかることはできるが、これほどの名品が全国の美術館や個人コ
レクターから数多く集結するのはおそらく30年に一度くらいのことだから、
目をかっと開いてしっかり味わった。
井戸茶碗で名品ぶりが際立っているのが大井戸茶碗の‘喜左衛門井戸’と‘細
川井戸’。この茶碗は橙の枇杷色が気持ちをすごく落ち着かせてくれる。そし
て、もう一つの見所が高台のまわりにみられる釉薬のちじれでできた梅花皮
(かいらぎ)。また外側についた轆轤目にも目が寄っていく。畠山記念館が所蔵するやきものは展覧会にはなかなかでてこないが、2017年にあった東博の‘茶の湯展’には揃って展示された。
2016年に重文に指定された‘粉引茶碗 三好粉引’が目に焼き付いている
のは胴部のところに茶褐色の笹の葉のようなものが刺さっているようにみえ
るから。これは釉のかけはずれにより胎土が現れたもの(火間という)。偶
然にできたものとはいえリアルなモチーフがイメージされるのがおもしろい。
‘茶の湯展’には滅多に出品されないものがでてきた。それは個人が所蔵している‘御所丸茶椀 古田高麗’。これは古田織部(1544~1615)が所持していたもので、織部の好みをベースにして注文され朝鮮でつくられた。楕円形に歪んだ碗部と胴に帯をまいたようにみえる景色に大変魅了される。そして、志野の白をおもわせる色合いも心を打たれるところ。この御所丸茶碗が朝鮮の陶工の技術と日本の茶人の美意識の合作により生まれたものであるのに対し、‘奥高麗 銘 三宝’は高麗茶碗の特徴を古唐津茶碗にとりいれたもの。これを奥高麗という。唐津焼は絵唐津同様、奥高麗にも心を揺さぶられる。