浮世絵について深く知らないときは美術の教科書に載っていた絵師から美人
画や役者絵、風景画を目に慣らしていく。美人画は師宣の‘見返り美人‘から
はじまり春信、鳥居清長、喜多川歌麿と続く。そして、東洲斎写楽の大胆き
わまりない役者絵に仰天し、最後は葛飾北斎、歌川広重の風景画を気分よく
楽しむ。鑑賞欲を刺激される回数が多いのはやはり美人画だが、ここにあげ
た4人のほかにすごい絵師がいたことを知ったのは美術館に頻繁に足を運ぶ
ようになってからのこと。
その絵師とは宮川派の宮川春水の門人、勝川春章(1726~1792)。
春信と同じくらいの年に生まれた春章ははじめは役者絵を描いていたが、
50代から当時の富豪たちの求めに応じて肉筆美人画に専念していく。その
評判はうなぎのぼりに上り、‘美人画は肉筆なら春章、錦絵なら歌麿’といわ
れるようになる。もともと西洋画でも日本画でも女性を描いたものに目がな
いので、春章の美人画を所蔵する美術館をインプットし展示の情報が入ると
喜び勇んで出かけた。
はじめてみたのは東博の浮世絵展示室に飾られた‘遊女と燕図’。春章の描く
女性は清長とちがって背は低くちょっと頭が大きいのが特徴。でも、春信に
比べればぐっと現実味のある女性だから、この遊女はしっかりみれる。驚か
されるのが着衣や帯の細密に描かれた模様、単眼鏡でみると仏画の截金細工
をみているような感じになる。これはスゴイ!
そして、春章で‘最高の瞬間’!がやって來る。どっちが先だったか忘れたが、
出光にある群像画の‘美人鑑賞図’とMOAの‘婦女風俗十二ヶ月図’に遭遇した。
さらに、MOAでは‘雪月花図 月図’もあわせてみれた。この3点との出会い
は生涯忘れられないエポック的な鑑賞体験である。女性の顔の白の輝き、
着物のけばけばしくない気品のある色使いと鮮やかな発色、そして精緻な
文様表現を夢中になってみた(拡大図でどうぞ)。MOAでみたのは
2006年、再会したいが、あまり展示しないのでその機会が巡ってくるだ
ろうか。
ボストン美にも春章のいい美人画が数点あり、2006年に披露された。
そこでみた‘石橋図’(しゃっきょうず)に頭がくらくらした。綺麗極まりない
衣装を身に着けリズミカルに舞踊‘石橋’を舞う女性のカッコよく美しいこと。
春章に乾杯!