岩佐又兵衛の‘山中常盤物語絵巻’(重文 17世紀前半 MOA美)
岩佐又兵衛(1578~1635)というすごい画家がいるということを美
術本で知ったが、本物を見る機会になかなか恵まれず画業全体をつかまえら
れずにいた。これを一気に解消してくれたのが2004年、千葉市美で開催
された‘岩佐又兵衛展’。待望の回顧展だったので天にも昇る気分で前のめり
になってみた。
もっとも惹きつけられたのがMOAから出品された‘山中常盤物語絵巻’と‘浄瑠
璃物語絵巻’。長い絵巻の全部ではなく一部だったが、岩佐又兵衛の魅力が
びっしりつまった画面構成や装飾的な色彩表現、躍動感あふれる人物描写に
視線が釘付けになった。この鑑賞の後日談があり、1年か2年後、運がいいこ
とにMOAでこの2つが全巻披露されたため、物語の全貌が目に焼き付けられ
た。それでわかったのだが、‘山中常盤物語’は東博にある‘後三年合戦絵巻’の
ようにかなり残虐性の強い表現になっている。盗賊に殺された母親の常盤御
前の復讐に燃える牛若丸は盗賊たちの首をはね、胴体を真っ二つに割る。こ
の残虐さに衝撃をうけ体がフリーズした。
一方、牛若丸と浄瑠璃姫との出会いから、姫の死までを綴った‘浄瑠璃物語’の
ほうは絢爛豪華な建築や調度、極彩色に彩られた衣装の細密な模様などを目
をこらしてみた。そして、最後のほうの場面に天狗が出てくるのも物語の流
れとしてはじつにおもしろい。全巻公開のお陰で存分に楽しませてもらった。
三の丸尚蔵館の‘小栗判官絵巻’で印象深いのが池のほとりで小栗が大蛇に見初
められるところ。波頭のうねりと大蛇の動きをシンクロさせる見事な表現を
息を呑んでみていた。
浮世絵師、菱川師宣(?~1694)の‘見返り美人図’は小さい頃、切手の
図案となったのをみて浮世絵美人画に関心が向くようになった。師宣が生ま
れた千葉の保田にある記念館にもクルマを走らせた。MOAには師宣がいくつ
かあり、いつも‘大江山物語’を興味深くながめている。美人画だけでなくこう
いう勇ましい題材にも心を寄せていたのか、という感じである。師宣は静嘉
堂文庫やボストン美のものも忘れられない。