数多くの美術館や博物館に足を運んでいると相性が良く、好感度の高いとこ
ろが自ずとできてくる。東京でいうと根津美と五島美。ここで開催される
特別展が期待を裏切らないことが多いというのが好感度をいだく理由だが、
所蔵品にすごいお宝があることも惹きつけられる一因。根津美で鑑賞欲を
そそる絵画のひとつが‘那智滝図’。
この絵がいつ頃ここでみたかは記憶が薄くなっている。熱海のMOAにある
光琳の‘紅白梅図’のように公開が毎年恒例になっているのとちがい、意を決す
れば数多くみれるという展示スタイルではないため、これまで何度もみたと
いう印象はない。たぶん3回くらいかもしれない。でも、ご神体であり崇拝
の対象としての那智の滝が描かれているので一回々がいつも神妙な感じにな
る神秘的な鑑賞体験だった。それは画面の中央に荘厳で神々しさをも感じさ
せて下り落ちる滝を描くといういう見事な空間構成から生み出されている。
この絵のインパクトは大きく、実際に観光旅行で那智の滝を目にしたときは絵
のイメージをかぶせて眺めていた。こういうことはほかの風景ではあまりない。
那智の滝と富士山だけはどうしてもピクチャレスクな感覚でみてしまう。
和歌山への旅は那智の滝で有名な熊野那智大社がメインだったが、熊野本宮大
社と熊野速玉大社にも出かけた。速玉大社には古神宝がどっさりあるのに普段
はみれない。ところが、運がいいことに2013年東博であった‘国宝大神社展’
に遭遇し、表着の‘袙(あこめ)’や絶品の‘橘蒔絵手箱’、そして‘金銀装鳥頸太刀’
にお目にかかれた。待てば海路の日和あり、である。