法隆寺は数回でかけたことがあるが、美術の本に載っている‘玉虫厨子’をみ
たか記憶があやふや。だから、2014年東博で開催された国宝展に出品さ
れたときはぐるぐるまわってかすかに残っている緑に輝く玉虫の羽を目に焼
きつけた。
この厨子にはもうひとつ見落としてはならないものがある。それは須弥座に
描かれた‘捨身飼虎図’。釈迦の本生譚(前世の話)が描かれており、よくみる
と下で釈迦が虎に食われている。早合点をすると、無残にも虎の犠牲になっ
たのかと思う。でも、釈迦は飢えた虎のため崖の上から身を投げて自ら餌食
になったのである。その一連の動きが異時同図法で描かれている。インドは
運よく2度訪問する機会があり、いくつかの仏舎利遺跡で釈迦の前世の話が
石に彫られていたのをみたので、この虎の絵にもすっと入っていけた。
奈良時代に描かれた‘吉祥天像’は古代の美人画では圧倒的な人気を誇っている。
豊満な体と風にひるがえる天衣につい見惚れてしまう。薬師寺でお目にかかっ
たのは生涯の思い出となった。正倉院にある‘鳥毛立女図屏風’も同様に強く惹
かれる。この‘樹下美人’は盛唐期の女性の絵に影響されており、その顔は当時
長安の都から、敦煌、中央アジア、インド、イランと広く流行したメーキャッ
プが使われている。とくに目をひくのが濃い眉毛、真っ赤な唇、おでこの白緑
のポイント。この女性を唐で描かれた‘仕女図’の横におくとよく似ていることが
わかる。
2014年、東博で嬉しい特別展があった。いつかみたいと思っていた‘キト
ラ古墳壁画’が目の前に現れた。出品されたのは四神のうち‘朱雀’、‘白虎’、‘玄
武‘。遥かなる古代飛鳥の壁画の美に誘われ、比較的全体がよくとらえられる
‘白虎’を夢中になってみた。今はもうひとつの追っかけ画、‘高松塚古墳壁画’の
女子群像との対面を夢見ている。