江戸時代に活躍した絵師のなかで琳派や京都画壇のビッグネームの面々は
回顧展が開かれる機会が多いので、画業の全貌をだいぶつかめるようになり
思い入れなり親しみがぐんと増してくる。一方、名前は知っているし主要な
作品は数点くらいはみたことのある絵師については、関心は持ち続けている
ものの鑑賞が単発であるため、心の中に絵師物語としてまとまってこない。
例えば、まだ回顧展に遭遇してない渡辺崋山もそのひとり。
英一蝶(1652~1724)はある時期までそのグループに入っている
絵師だった。それを脱出するきっかけとなったんのが2009年、板橋区美
で開かれた回顧展。そして、2017年には‘ボストン美の至宝展’(東京都
美)にみたくてしょうがなかった‘涅槃図’が里帰りしてくれた。この晩年に
描かれた大作(縦2.9m、横1.7m)はもとはフェノロサコレクションだっ
た。涅槃に入る釈迦と悲しみにくれる菩薩、羅漢、動物などが描かれている。
修理が完了した後だけに鮮やかな色彩に感動する。中央の釈迦の上に聖界、
下に俗界を描く画面構成も見事。一蝶で‘最高の瞬間’!だった。
一蝶に惹かれる決定打となった絵が東博の平常展でよくお目にかかった‘雨宿
り図屏風’。突然のにわか雨を避けるため人々が武家屋敷の門の軒下に集まっ
ている。おもしろいのが柱にぶらさがったり、傘の破れ目から顔をだしたり
する子ども。いつの時代も子どもは落ち着きがないからじっとしていられな
い。こんな光景はわれわれの日常生活でもよくあることだからすぐ絵のなか
に入っていける。
‘布晒舞図’に思い入れがあるのは、これをみるため埼玉県川島町にある遠山美
までクルマを走らせたから。なかなか展覧会に登場しないので披露される
タイミングを美術館のHPで定点観測し、ようやく絵の前に立つことができた。
ひらひら舞う白い布はまるで新体操のリボンのよう。扇と布をリズミカル
に操る踊り子の姿に酔いしれた。静嘉堂文庫美でお目にかかった‘朝とん曳馬
図’は池に子どもと馬の影が映り込んでいるのに新鮮な驚きがあった。同じこ
とを賑やかな宴会を描いた‘四季日待図巻’でも踊り子のシルエットに感じる。