美術館が好きになる要素としてアクセスの良さというのがある。少しばかり体を動かせばたどり着くというのはなんといっても魅力。でも、アクセスだけが美術館へ行く決め手ではない。多少時間がかかっても足を運ぼうと思う美術館だってある。千葉市美はそんな美術館のひとつ。ここで期待の‘中村芳中展’(4/8~5/11)がはじまった。
中村芳中(?~1819)の回顧展に遭遇するのははじめてのこと。琳派の作品を集めた特別展があるとき、芳中(ほうちゅう)の作品も出品されるが数はほんの数点。だから、これまでみたものはほかの絵師と比べると圧倒的に少ない。
この状況がずっと続くものと思っていたら、流石、回顧展が得意の千葉市美、3年前開催した‘酒井抱一展’の勢いで‘中村芳中展’にまでチャレンジしてきた。エライ!お蔭で芳中にぐぐっと近づくことができた。
会期は一ヶ月ちょっと。二週間で作品が入れ替わる。作品は全部で216点、このうち芳中は120点ほど。最初のほうに展示してある扇面貼交屏風にはいろいろなモチーフが登場する。思わず足がとまったのが‘大根とくわい’、そしてある絵が頭に浮かんだ。それは若冲が描いた野菜の絵、茄子、南瓜などとともに大根、くわいがでてくる。
芳中というとすぐイメージするのが墨や色のたらし込み技法。それをとても美しく感じさせてくれるのが‘白梅図’、縦に伸びる枝ぶりと太い幹のどんとしたおさまりかたは生け花をみるようでもあり、また盆栽のイメージ。でも、そのフォルムはかなり前衛的。
今回の収穫は人物や動物を描いたもの、そのなかで長くみていたのが‘許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風’、画像は左隻の‘蝦蟇鉄拐図’、芳中もほかの絵師たちと同様に古代中国の話いっそうにでてくる人物を描いていた。二人の着ている衣服の模様にたらしこみが使われているので、妖怪のイメージが強まっている。
江戸にいるとき描いた‘光琳画譜’にでてくる仔犬は宗達風でもあるし応挙風でもある。3匹ともじつに可愛い。仔犬同様、肩の力がすっとぬけるのが光琳の‘大黒図’、MIHO MUSEUMが所蔵するこの絵を長く追っかけていたが、ひょいと目の前に現れてくれた。ミューズに感謝!