日本画のなかではじめは才能豊かな絵師がたくさん揃っている琳派と浮世絵
に鑑賞エネルギーの大半を注いでいた。幸い美術館でこのテーマの特別展が
開催されることが多いため、名画の数々を楽しむことができ深くかかわるよ
うになった。浮世絵については自然と美人画に心は寄っていくが、そのシン
ボルのような絵が切手の絵柄にもなった菱川師宣の‘見返り美人図’(東博)。
これが強烈にインプットされているため、美人画というと浮世絵ばかりに
関心がいっていた。
ところが、日本画の視覚体験が増えるにつれ浮世絵が登場する前にも気を引
く風俗画があることに気づき、名画を追っかけるようになった。そして、
その‘最高の瞬間’!がやって来た。それは奈良の大和文華館に飾ってあった
国宝‘婦女遊楽図屏風’。対面した時期が修復が完了した直後だったので、この
絵の主役である遊女たちが着る衣装の文様と色彩が鮮やかに浮き上がってい
た。画面が大きく、似たような顔をした女性たちが等身大で描かれているよ
うで親近感をおぼえる。このときの感動は一生忘れられない。
彦根城にある同じく国宝の‘彦根屏風’(六曲一双)は右で刀によりかかるかぶ
き者とその横で振り向く遊女のポーズに視線に集中する。観る者を惹きつけ
る体のつくりかたがとても上手い。同じことを‘湯女図’の群像描写にも感じる。
前の二人は首を大きく後ろに曲げて、なにか威勢よく喋っている風にみえ
る。右端の女は口に袖をあて客の動きを一生懸命みている様子。‘お客さん、
早く声かけてちょうだいよ’とかなんとかいっているのだろうか。
‘舞踏図’はここにあげた京都市所蔵のほかにサントリー美、大谷コレクション
(今はもう手放した?)のものに運よくお目にかかることができた。‘湯女図’
とはちがい、こけしのようなふっくらした顔立ちに肩の力がぬける。そして、
出光美にある‘桜下弾弦図屏風’も強く印象に残っている。岩佐又兵衛の描く女
を彷彿とさせるが、女たちの色鮮やかな小袖と咲き誇る桜が美の共演を演出
している。かぶき者ファッションに欠かせないアイテムの長煙草(キセル)
に目が点になる。