歌川広重の‘即興影法師尽し 根上りのまつ 梅に鶯’(1830~44年)
サントリー美の‘のぞいてびっくり江戸絵画’(3/29~5/11)はもともと出かける予定はなかったが、たまたまみたHPにより小田野直武(1749~1780)の‘不忍池図’が出品されることがわかったので、急遽出動した。いわゆる‘一点買い’というやつ。
この展覧会ではサントリーにしては珍しく158点の作品を前期(3/29~4/21)と後期(4/23~5/11)の2回に分けたすっきりスタイルでみせている。‘不忍池図’は前期の展示。この秋田蘭画を代表する絵は入室するとすぐ出迎えてくれる。長年追っかけてきたが、ようやくみることができた。
目を惹くのが構図。手前になぜか鉢植えの芍薬が大きく描かれている。花弁の白の胡粉と薄ピンクが異様に輝いているのがじつに印象的、そして、目が釘づけになるのが池にむかって長くのびる鉢の影。この陰影法は西洋画となんら変わりない。
こういう自然の風景を背景にした静物画をドラクロアやデ・キリコ、日本の洋画家の岡鹿之助らも手がけており、画面の構成が小田野のこの絵とよく似ている。ちがいは描写の細やかさ。‘不忍池図’では遠景に空を舞う鳥や人々を単眼鏡でないと確認できないくらい小さく描き込んでいる。
収穫がもうひとつあった。それは円山応挙(1733~1795)の描いた眼鏡絵の‘三十三間堂’、これは絵としてはみたことがあるが、西洋で発見されたのぞきからくりにどのようにみえるのかイメージできなかった。今回美術本に載っているような反射式覗き眼鏡が展示してあり、鏡に反射させた絵をレンズのむこうにみれるようになっている。これは嬉しい体験!
眼鏡絵自体が遠近法を使って描かれているので立体的にみえるが、レンズをのぞくとさらに臨場感が増し通し矢の場面がまるで3D映像のような感じにみえる。反射式では鏡に映すので絵はモチーフがはじめから左右逆に描かれている。
ほかの作品はこれまで目にしたものが多かったのでさらっとみた。4階から3階に降りたところに江戸時代の人たちが楽しんだエンターテイメントが再現されている。絵を切り抜いていろいろなものにこしらえる‘立版古’、奇妙にゆがんだ絵を丸い筒の形に写してみる人にその形の変化をおもしろがらせる‘鞘絵(さやえ)’。夢中になってみてしまうのが鞘絵、この装置のまわりを回ってみたり、体をかがめたりすると絵に描かれたおかしな人物がたしかにまともな姿にみえてくるから不思議。
歌川広重(1797~1858)の影絵にも思わず足がとまる。障子のうしろの影はどうみても根が張った松、その形は男が傘を頭にかぶりそして両手にいくつも持つ「ことによってつくられたものだった。これをみて、浅草演芸場で芸人が扇を口や手に数多くくわえたりもったりする演技を思い出した。