画家が描く名画と強く結びついているのがそれを所蔵している美術館。大好
きなミロ(1893~1983)の前のめりになってみるほど楽しいシュー
ル画をみせてくれたのはNYにあるグッゲンハイム美とMoMA。感激の瞬間
の舞台はアメリカではなく日本。グッゲンハイムは1991年(セゾン美、
現在は無し)、そしてMoMAはその2年後の1993年(上野の森美)に
夫々美術館名品展が開催された。どちらもハイレベルの近現代アートを満喫
できるすばらしい特別展だった。
ミロの生み出すシュルレアリスム絵画は線や点々などで抽象的に表現された
ものと、ところどころ生き物や木々や草花が赤塚不二夫のギャグ漫画を連想
させるするようなユーモラスにデフォルメされた形になって登場するものが
ある。ミロに愛着をおぼえるのはもちろん後者。
その傑作が‘耕地’。下半分の右のほうにそれらが集まっている。とんがり帽子
を被ったトカゲ、大きなカタツムリ、そして耳と目をもつ茶色の木。‘カタロ
ニア風景(狩人)’もとてもおもしろい。シュールな感覚を楽しむというより
ギャグ漫画の源流を興味津々みている感じ。画面の黄色のところは地中海
と空を表しており、その下の橙色は海岸線。比較的わかりやすいのが下の食
べられたイワシ、左から三角形の尻尾、卵巣、背骨、耳、そして黄色の頭。
では、狩人はどこに描かれているのかというと、地中海の左に三角形が描か
れている部分。これは顔で口ひげと顎ひげをたくわえ、海岸線に立ってパイ
プをくゆらしている。
ミロがオランダを旅行したとき訪れたアムステルダムの美術館でみた昔の
巨匠の作品を現代のスタイルの色彩やフォルムに置き換えたものが‘オランダ
の室内Ⅰ、Ⅱ’。Ⅰの原画はソルフの‘リュート弾き’で、Ⅱはステーンの‘猫の
ダンス’。ミロの変奏ではリュート弾きの顔は岡本太郎の彫刻‘太陽の塔’みたい
とぷっと膨れている。下でリラックスした犬と猫が演奏を聞いている。ほか
にはリュートの先の横でもコウモリが音色を楽しんでいる。
Ⅱでは猫のダンスをみてはしゃいでいる黄色の犬が下に描かれている。
フィラデルフィア美の‘月に吠える犬’も一目で引きこまれる。なんだか犬らし
いユーモラスな姿が真上の月といい具合にマッチしている。そして、下から
のびる梯子。詩情感を漂わせるシンプルな画面構成が犬の存在感を強く意識
させる。