ホルバインの‘大使たち’(1533年 ナショナル・ギャラリー)
ドイツの画家というとデューラー(1471~1528)がすぐ思い浮かぶ
が、これまで日本で遭遇した回顧展は版画を集めたものなら一度あるが油彩
画をたくさんみたことはない。だから、海外の美術館でお目にかかったもの
で画風のイメージが出来あがっている。数が多いのはやはりドイツ・ミュン
ヘンのアルテ・ピナコテークとウイーン美術史美、そして、プラドやウフィ
ツィにもいい絵が並んでいる。
いくつかある自画像はプラドでみたのがもっとも印象深い。これは26歳の
デューラー、大変なイケメンで女性が胸キュンとなるモテモテ貴公子のよう。
驚かされるのはカールされた金髪の緻密な写実表現、金髪の描き方はダ・
ヴィンチとデューラーが双璧。2003年中欧をまわったとき、チェコの
プラハ国立美を訪問した。そこで‘最高の瞬間’が生まれた。その絵は2度目の
イタリア旅行の際にヴェネツィアで描いた‘ロザリオの祝祭’。赤や黄色が占
められた画面全体が輝いているようだった。この絵でデューラーの評判は一
気に高まった。これをみたことは生涯の思い出である。色調的には同じ感じ
のする万聖図’でも思わず、うヮーと声が出た。色彩が人々の心をとらえた
ヴェネツィア派に学びそれを自分流に吸収し傑作を生み出した。デユーラー
に乾杯!
画家に対する好みや評価がはじめから高原状態になる画家もいれば、それま
であまりぐっときてなかったのに一枚の絵に遭遇し評価がぐんと上がること
もある。フランドル絵画のファン・デル・ウェイデン(1399~1464)
は後者の画家。プラドで‘十字架降下’をみて、おおげさにいうと腰が抜ける
ほどびっくりした。ウェイデンにこんなすごい絵があったのか!視線がむか
うのが気絶した聖母マリアの迫真的な描写。この絵でウェイデンに開眼した。
ホルバイン(1497~1543)のリアルな人物描写が目に焼きついてい
る。NYのフリック・コレクションに飾ってあった‘サー・トマス・モア’は
本人と今対面している感じ。本当にすごい肖像画。ロンドンのナショナル・
ギャラリーにはギョッとする絵がある。‘大使たち’をなにげなくみていると
それで終わってしまうが、手前にいびつな形が宙に浮かんでいる。これは
一体何か?斜め右側からながめると、なんと髑髏が浮かび上がる。ホルバイ
ンはここに死の影をしのばせている。髑髏は‘メメント・モリ(死を想え)’
と‘ヴァニタス(はかなさ)’の象徴。