‘干し草車’(1821年 ナショナルギャラリー)
‘白馬’(1819年 フリックコレクション)
‘舟造り、フラットフォードの製粉場付近’(1815年 V&A美)
‘ウェインヴァンホー・パーク、エセックス’(1816年 ワシントンナショナルギャラリー)
今年、展覧会をみるため美術館に足を運んだのはわずか3回。新型コロナの
感染の影響で美術と接する機会がこれほど少なくなると、名画は一体どこへ
いったのか、と悲観的な心境になっていく。だから、2月に三菱一号館美で
みた‘コンスタブル展’は希望の光を消せないでくれた有り難い特別展だった。
長いこと待っていたコンスタブル(1776~1837)の回顧展で目玉
作品のひとつだったのが‘フラットフォードの製粉場’。日本には2度目のお披
露目、前回みたのは1998年東京都美にあったテートギャラリー展なので
23年ぶりの対面となった。この間、ロンドンのテートブリテンに足を運ん
だが、どういわけかここでは姿がみえずほかの作品が並んでいた。海外の
ブランド美術館は人気の画家のいい絵をたくさん持っているのでローテーシ
ョンの関係でこうことはよくある。そのため、この絵については2回とも
日本でみるという不思議なことがおこった。そんなこともあり最も気に入っ
ている絵になった。
ナショナルギャラリーにも大変有名な絵がある。‘干し草車’が描かれたのは
‘フラットフォードの製粉場’同様、コンスタブルの故郷、サフォーク州の田園
風景。川の水辺に一軒の農家が建っていて浅瀬には干し草を積む荷車が乗り
入れている。夏の光が川面や木の葉に反射する描写がとても印象的で牧歌的
な風景画が心を和ましてくれる。絵はフランスの画商に買われ、1824年
のパリのサロン(官展)で金メダルをとり、海外での評価が高くなったのに、
本国のイギリスではさっぱり売れなかった。風景画というジャンルがまだ低
く見られており、ありふれた農村は人々の興味を引かなかったのである。
アメリカの美術館もコンスタブルの傑作を所蔵している。魅了されているの
はNYのフリックコレクションにある‘白馬’とワシントンのナショナルギャ
ラリー蔵の牛と白鳥が主役をつとめている‘ウェインヴァンホー・パーク、
エセックス’。どちらもどこにでもあるような風景で絶景と唸らせるほども
場所ではない。でも、光の描写、白い雲の描き方による美しい風景と感じ
られる風景画をうみだした。これがとても新鮮にだった。
ヴィクトリア&アルバート美でみた‘舟造り、フラットフォードの製粉場付近’
は中央に置かれたつくりかけの舟の存在感がまわりに小さく描かれた人々に
よって大きくなっている。