世界中から大勢の観光客がやってくるパリで一番の人気を誇るのが美の殿堂、
ルーヴル美術館。もう一度くらいは行ってみたいが、新型コロナ感染の影響
がまだ尾を引きそうなので具体的な時期についてはイメージが湧いてこない。
海外へ動き出すのはアバウトには2年後になりそう。
ルーヴルで心を奪われる名画は数多くあるが、ダ・ヴィンチの‘モナリザ’の
ほかにはすぐ隣の大広間に飾られているドラクロアの‘民衆を率いる自由の
女神’とジェリコー(1791~1824)が描いた縦横4.91m×7.16
mの大作‘メデューズ号の筏’も一生の思い出となる鑑賞体験である。
ジェリコーはジャーナリズム的な感覚があり、1816年に起きた戦艦メデュ
ーズ号の陰惨な海難事件を題材にしている。疲れきった人々が筏の上にかた
まり、何人かは救いを求めて布を振る男を支えている。西アフリカのセネガル
をめざしていたメデュ―ズ号は途中で浅瀬に座礁した。400人の乗員に対し
て救命ボートが足りず、下級船員たち152人は急ごしらえの筏で12日間漂
流した。発見救助されたときの生存者はわずか15人。彼らは人肉を食べて飢
えをしのいでいた。ジェリコーはこの悲惨な漂流をすばらしい構図をつかって
人々のぎりぎりの精神状態を深く表現した。
小さいころから馬が大好きだったジェリコーはイギリスのダービーを観るため
海を渡り有名な‘エプソンの競馬’を制作した。ドガやマネにも競馬の絵があるが、
ギャロップする馬の足が前後にピーンと伸びた姿をみると馬の躍動美と競馬場
の臨場感に痺れてしまう。その馬が悲鳴をあげているのが‘白馬を襲うライオン’。
馬を熱愛したジェリコーはなんと落馬して32歳の若さで永眠した。
同じロマン主義のドラクロアとジェリコーは肖像画の名手でもある。ジェリコ
ーで魅了されるのは無名の人たちをモデルにしてさまざまな狂気の症例を描い
たもの。全部で10点あるが、リオン美にある‘羨望偏執狂’はその一枚。たしか
にどこか狂っている感じがする。そのリアルな表情をみているとジョルジョー
ネの‘老女’(ヴェネツィア アカデミア美)がオーバーラップしてくる。
‘アトリエの若い芸術家’も伝統的なメランコリーの図像を使った描写がなかなか
いい。