‘バナスター・タールトン卿’(1782年 ナショナル・ギャラリー)
レノルズ(1723~1792)は4歳年下のゲインズバラとは肖像画で
ライバル関係にあった。若い頃、ローマで2年間すごし古代作品や盛期ルネ
サンスの巨匠たち、とくにミケランジェロの作品を研究した。当時の美術
界ではゲインズバラ同様、上流社会から肖像画の制作依頼が多くあり、
ロイヤル・アカデミーの初代会長をつとめた。
日本でレノルズの絵をみた記憶はないが、ナショナル・ギャラリーとメトロ
ポリタンでグッとくる男性の肖像画に遭遇した。‘バナスター・タールトン
卿’は確かはじめてのナショナル・ギャラリーで印象深かったイギリス絵画の
ひとつ。背後で暴れる馬とそれをみているように感じられるタールトン卿の
少し腰をかがめる姿に目が釘づけになった。同じ年に描かれた‘近衛歩兵第一
連隊ジョージ・クースマケール大佐’の立ち姿にも思わず足がとまる。ここで
は大佐の立ち姿と馬の首がつくりだす曲線が見事にからみあっている。
肖像画ではモデルの個性がでていたほうが絵のなかに入りやすい。イタリア
の学者を描いた‘ジュゼッペ・バレッティ’はじっとみていると‘一体何の本を
読んでいるのだろうか?’、と気になってくる。気難しい学者だと近づくと嫌
な顔をされそう。それくらい人間臭いところがこの肖像画の名画たるゆえん
かもしれない。
一方、女性の肖像画では可愛いお嬢ちゃんを描いた‘ボウルズ嬢と犬’がなか
なかいい。ペットの犬を抱きしめる女の子の優しさと愛らしさが胸を打つ。
‘着飾る三人の婦人’は古典画が蘇った印象を受ける作品。レノルズは画面に
動きをつくりだすのが大変上手い。真ん中に跳びはねているような婦人を描
き左では膝づかせ、右では手を上にあげさせている。この工夫は観る者
の視線が左下から斜めに上がっていくようにするため。三人が手にもってい
る多くの花びらでできの飾り物が婦人たちの美しさを際立たせている。