‘アベルの体をみつけたアダムとエヴァ’(1826年 テート美)
‘ダンテに語りかけるベアトリーチェ’(1824~27年 テート美)
テート・コレクションはイギリス絵画を集めたテート・ブリテン(テート美
のことで以前はテートギャラリーと呼ばれていた)と近代絵画や現代アート
を展示するテート・モダンの2つに分かれている。新しくつくったモダンの
ほうは2度訪問したが、2010年にみた大ゴーギャン展が忘れられない。
ブリテンはテートギャラリーのときとあわせて4度でかけた。ここは美術館
の出版物に特徴があり全体のカタログは勿論あるが、これに加え人気画家の
本もつくっている。情報が増えるのは有難いのでターナー、ロセッティ、
バーン・ジョーンズを購入した。もう一冊気になる画家もあったので追加し
た。その画家の名前はウイリアム・ブレイク(1757~1827)。ター
ナーやコンスタブルより20年くらい前に生まれた画家で、ほかの国で近い
人物というとスペインのゴヤ(1746~1828)とドイツのゲーテ
(1749~1832)がいる。
ブレイクの絵でもっとも目に焼きついているのが‘アベルの死体をみつけた
アダムとエヴァ’。聖書の物語はだいたい頭に入っているがこうして絵画化さ
れると内容を立体的に理解することができる。頭を抱えて恐怖におびえてい
るのが弟のアベルを殺してしまったカイン。後ろでのけぞりかえり放心
状態の父親アダムの動きにも衝撃をうける。そのため、アベルの死体の傍ら
で悲観にくれるエヴァへ視線がとどまっている時間は少ない。そして、背景
描写も巧みで事件の衝撃の深さを物語るように青で表現された大小の山々の
間に赤く燃える太陽が顔をだしている。ブレイクにいっぺんに嵌った!
1795年に描かれた‘アダムを創造するエロヒム’と‘ニュートン’は横から
人間の体をみつめることがこれほど新鮮にうつることを教えてくれる作品。
神もアダムもニュートンもなぜか筋肉隆々なのがおもしろい。蛇にまかれる
アダムは本当に祝福されて生まれてきたのだろうか。ふたりの目が暗すぎる。
ブレイクはニュートンは合理主義の危険を象徴する人物と考えており、図形
に夢中になるニュートンをコンパスで全生涯を計測できると思っている科学
者として描いている。コンパスのイメージが残るのが‘太古の日々’。刺激的
な形態をみせる人間と自然の姿である。
ダンテの‘神曲’に対する想像力が膨らむのが‘ダンテに語るかけるベアトリー
チェ’。右にいるのがダンテ、目をひくのは怪物のグリフィンと高い所にいる
ベアトリーチェのまわりを回転している目。こんなユーモラスなグリフィン
が神曲に登場したっけ?深刻でない神曲の絵をみるとブレイクの良さがわかる。