レイトンの‘音楽の稽古’(1877年 ギルドホール・アート・ギャラリー)
イギリス絵画にスポットをあてた企画展が日本の美術館で開催されるときは
テート美が所蔵するものをメインの展示することが多い。フランスの美術館
名品展だとルーヴル、オルセーが定番のように、テート美からはターナー、
コンスタブル、ラファエロ前派など人気の画家たちだけでなくあまり馴染
みのない画家の作品も出品されるため、画家のラインナップも今ではだいぶ
広がっている。古典的唯美主義のアルバート・ムーア(1841~1893)
のその一人。
ムーアのイメージは‘花’や‘ふたりづれ’のような古代風の衣装を着た女性の
単身立像でできあがっている。物語性をなくし大英博物館の大理石彫刻群か
ら学んだ純粋な色彩と形態の調和をもとに描かれた女性像は一種の癒しの絵
画にもなっている。そして、背景の花模様やギリシャ風の装いにも装飾の効
果があらわれその芸術性を高める表現が目に心地いい。
‘夏の夜’は5年くらい前?渋谷のBunkamura?で遭遇した絵。それま
で縦長の画面に一人かフリーズ状に並んだ女性が描かれたものばかりをみて
いたので、この裸婦の姿にバリエーションをもたして描いた横に長い作品
は刺激的だった。しかも、向こう側の月の光の照らされた海の情景が心を打
つ。まさに唯美主義が全開といったところ。これがムーアの最高傑作。
フレデリック・レイトン(1830~1896)は鑑賞の機会が少ないが、
ムーア同様古典風の絵画を描いている。いつかロンドンを再訪することがあ
れば‘レイトンハウス’にでかけることをアバウトに決めており、もっと作品
に接近したい画家である。お気に入りはアラビアの楽器と衣裳が精緻に描
写されている‘音楽の稽古’と意味不明のタイトルがついた‘燃える6月’。6月
は女性の心に火をつける特別のことがあるのだろうか。じっとみていると
クリムトの官能的な女性画が浮かんでくる。