‘グラン・ブーケ’(1901年 三菱一号館美)
‘霊を宿す蝶’(1910~12年 デトロイト美)
‘ヴィオレット・エーマンの肖像’(1909年 クリーブランド美)
ルドンの静物画の多くは明るく鮮烈な色彩表現ができるパステルによって描
かれているため、みていると軽妙で浮き浮きするような感じになる。最も
魅了されているのはオルセーでみた‘長首の壺の草花’。これは亡くなる4年前
の作品で赤、黄色、青紫のきれいな色が並んだ花はパリ郊外にあった自分の
花畑からとってきたもの。親しみの沸く花だからつい長くみてしまう。
‘グラン・ブーケ(大きな花束)’は三菱一号館が所蔵する自慢の絵。1901
年に描かれたこの大作(縦2.48m、横1.63m)はある男爵の城館の食堂を飾
った装飾画のひとつでもっとも大きな絵。これをなんと三菱は手に入れてし
まった。流石というほかない。2018年にオルセーが所蔵するほかの15点
と一緒に披露されたときは息をのんでみていた。二度目の公開を待ち望んで
いる。
‘草花’も‘グラン・ブーケ’もパステル画だが、‘霊を宿す蝶’は油彩によって色彩
の輝きをみせている。ぱっとみると速水御舟の蛾が舞う作品を連想する。日本
人にとって蝶は白い羽をしたモンシロチョウが畑を飛びかう光景がすぐ思い浮
かび、やさしい蝶々のイメージができている。ところが、日本画にのめりこみ
御舟の絵をみてしまうと蛾と蝶が一緒になって、蝶の絵をみても神秘的な雰囲
気が漂うようになる。だから、象徴主義のルドンが蝶に霊的な感情を抱いたの
もよくわかる。
色彩の世界を大きく広げたモチーフはギリシャ神話、花、そして人物。ともに
パステルで描かれた次男のアリとヴィオレット・エーマンの肖像画に大変魅了
されている。使われている色は2点ともよく似ており、淡い色彩やかすれ、ぼか
しで描写された花々がアリと横向きの女性をそっと祝福している。