‘オイディプスとスフィンクス’(1864年 メトロポリタン美)
パリを毎年訪問しルーヴルやオルセーに東博へ通うように出かけるのが夢だ
が、その実現にはまだ時間がかかりそう。10年くらい前新装なったオルセ
ーはまだ足を踏み入れてないので、2,3年後にはなんとしても再訪したい。
ここは印象派やゴッホ、ゴーギャン、スーラの名画がずらっと揃っているだ
けでなく、大変魅了されている象徴主義のモロー(1826~1898)の
傑作と対面できる美術館でもある。
日本でもモローの人気は高く、これまで3回の回顧展を体験した。最近では
2年前、パナソニック汐留美に代表作の‘出現’(モロー美)が出品された。
この展示は大げさにいうとひとつの‘事件’がおきたようなものである。また、
2002年西洋美でハーバード大のフォッグ美にあるウィンスロップ・コレク
ションが披露されたときモローが5点も含まれていた。だから、日本にいても
完成度の高いモローを楽しめたのだが、この画家の魅力を最初に感じたのは
オルセーにはじめ行ったときみた‘オルフェウス’や‘イアソンとメディア’。
詩人で竪琴の名手オルフェウスは妻を冥界からとり戻せなかった悲しみで落
ち込んでいたのに、狂女たちに八つ裂きにされて頭と竪琴を川に投げ込まれ
てしまった。この話をモローは若い女性が流れ着いた首と竪琴を拾い上げる
という絵に仕立て上げた。幻想的なシーンを息を呑んでみていた。そして、
モローの大ファンになった。
メトロポリタンにある‘オイディプスとスフィンクス’はモローの出世作となっ
た作品で、もっとも見ごたえがあるかもしれない。ギリシャ悲劇のなかでは
有名な場面だが、本でイメージするときはスフィンクスはとても怖い怪物、
謎かけに答えられなければ即食い殺してしまう。足元には殺された人たちが
無残にも転がっている。でも、このスフィンクスは顔だけ見ると綺麗な女性。
筋肉隆々のオイディプスにじっと見つめられ、‘あら、そんなに難しく考える
ことないのよ、分かんなければ少しはヒントのオマケをあげるから気楽に答
えてね’ とかなんとか優しくつぶやいているよう。
オペラ座からそう遠くないところにあるモロー美を訪問したのは30年前の
1991年。もちろんお目当ては‘出現’、妖艶なサロメは床から舞い上がった
ヨハネの生首を誘うようにみつめている。ファムファタルモード全開といっ
たところ。これがサロメの物語か、という感じでエポック的な鑑賞体験とな
った。そして、大画面の隅から隅まで釘づけになってみた‘ユピテルとセメレ
ー’にも200%圧倒され、興奮度はプラトー状態になった。