‘美術館に乾杯! 日本の美術館’シリーズをスタートさせたとき最初にとりあ
げたのは倉敷の大原美。ここは広島で9年仕事をしたこともありよく訪問し
たが、行くたびに大きな感動をもらった。名画が揃った西洋絵画はエル・
グレコ、ゴーギャン、モネが有名だが、この美術館によって画家の名前を知
ったものある。すぐでてくるのがセガンティーニとベルギーのレオン
・フレデリック(1856~1940)。
度肝を抜かれたのは部屋いっぱいに飾られたフレデリックの大作‘万有は死に
帰す、されど神の愛は万有をして蘇らしめん’。これは全部で7枚あり完成す
るのに25年の歳月をかけた文字通りのライフワーク。描かれているのは神
の怒りを買った人類が炎にまかれ死に絶え、やがて神の下復活する、という
キリスト教の物語。画像は6枚目の‘復活’の場面。びっくりするほど多くの
人々が画面の手前から奥に向かってびっちり描き込まれている。その密度の
濃い群像描写にはほとほと感心させられる。この絵によってフレデリックの
名前が深く胸に刻まれた。
オルセーにある‘労働者の時代’は伝統的な三福対の形式を借りて労働者の厳し
い生活の現実がリアルに表現されている。ここでも赤ん坊や幼い子どもたち
に目がいくように人物配置位置がなされている。子どもをこれでもかという
ほど登場させる作品はフィラデルフィア美でもお目にかかった。この手の絵
は一体何点あるのだろうか? 1点でも多くみれるといいのだが。
‘祝福を与える人’は古典の宗教画の現代版。髪や顎髭の精緻な描写はまるで
今聖者から祝福を受けているような感じ。同じように迫真的なレアリスムに
ぐっと引き寄せられるのが‘農民の子’と‘三姉妹’。心を鎮めてこの女の子たち
の純真で素のままの姿をながめていたい。