‘汝らも幼子のようになるべし’(1929年 フォルクヴァング美)
エミール・ノルデ(1867~1956)はキルヒナー、ベックマンととも
にドイツ表現主義を代表する画家でモチーフを圧のある色彩で描く表現は目
に強く焼きついているが、残念なことに作品で出会う機会が少ない。以前は
ドイツの美術館が所蔵するコレクション、例えばエッセンのフォルクヴァン
グ美やケルンのルートヴィヒ美などの名品展がときどき開催されドイツ人画
家に目が少しずつ慣れていたが、今はそれがなくなった。
絵画鑑賞は視覚体験をどれだけ積み重ねるかによって楽しみの深さが増して
くるのに、逆にみる機会が減ってくると画家の存在感がだんだんうすれてく
る。ドイツの表現主義についてはそんな状況だったが、2018年北欧を
旅行したときノルウェーのオスロ国立美で久しぶりにノルデに出会い、あの
燃えるような色彩に惹きこまれた。その絵は1911年に描かれた‘夜のバー
で’。自信ありげな男の顔は黒の眉毛が‘ㇵ’を逆さまにしたように描かれてい
る。唇は女性のように真っ赤。これくらい色彩の力で画家の内面の感情が
表現されていると絵のイメージは長く残る。同じ年に制作された‘カフェにて’
では横向きの男性は手と顔は黄色、髪とスカーフは緑で描かれている。
ノルデはゴッホ(1853~1890)の絵から強く影響をうけており、
ゴッホ以上に‘イエローパワー’が炸裂している。そして、強烈な‘レッドパワー
’が加わることで心に感じるものがより力強く表現されている。厚塗りのイエ
ロー&レッドに押されっぱなしなのが宗教画‘子どもたちの中のキリスト’と
‘さもなくば、汝らも幼子たちのようになるべし’。ここでの主役は子ども
たち、その青い目は大人の男女でもコピーされている。
‘静物画 牛の置物、日本人形、頭部’は顔が派手な色でペンティングされた
アフリカの部族を連想させる頭部に視線が集中する。さらにダブってくるの
がアンソールの仮面。後ろに置かれた日本人形でおもしろいのは眉が逆ㇵに
つりあがっていること。これは‘夜のバーで’と同じノルデ流の表現。