藤本能道の‘草白釉釉描加彩 翡翠図四角隅切筥’(1985年)
今泉今右衛門(十三代)の‘色絵吹重ね草花文鉢’(1996年 東博)
今月23日(日)で終了する‘人間国宝展’(東博)は現代の名工の作品とともに古典の名宝が並んで展示されているのが大きな魅力。まさに‘日本工芸の祭典’。だから、今回作成された図録は宝物を手に入れたような気分になる。
とにかく、これもあるの!というくらい国宝、重文がいくつも目の前に現れてくる。やきものでは、
★‘奈良三彩壺’(重文 九博)
★‘志野茶碗 銘広沢’(重文 湯木美)
★‘火焔型土器’(国宝 新潟十日町市博)
★‘青磁下蕪形瓶’(国宝 アルカンシェール美)
このなかで‘奈良三彩壺’がみれたのは大きな収穫。また、なかなかみる機会のない‘火焔型土器’にまた会えたのも幸運だった。古典の名宝とセットでみることでいっそうやきものの味わいが伝わってくるひとつが中里無庵(1895~1985)が作陶した‘朝鮮唐津耳付水指’。いつかみたいと願っていたが、白濁した藁灰釉が飴釉のなかに流れてできる景色がじつにいい感じ。
2年前、102歳で亡くなった三輪壽雪(1910~2012)、この萩焼の名工の代名詞となっているのが‘鬼萩’。器面をおおう厚ぼったい白釉をみるたびに小さい頃食べた砂糖が盛り上がるほどついたビスケットを思い出す。そして、どっしりした十字の割高台にも目がいく。
まるで花鳥画をみているようなのが藤本能道(1919~1992)の翡翠が描かれた八角の筥。5年くらい前に体験した回顧展でこの翡翠の目の覚めるような青緑に魅せられ、木の葉ずくや雀とも遊んだ。こうした鳥たちに見入ってしまうのはモチーフの構成と八角形という筥の造形がうまくマッチしているから。藤本は絵画的な表現で独自の作風を切り開いた。
十三代今泉今右衛門(1926~2001)の色鍋島にも大変魅了されている。青色のにじみや灰色のグラデーションを使いリズミカルに描かれた草花の幻想的な意匠、円い鉢とそのやわらかな曲線が一体化しており、花の美しさを十二分に感じさせてくれる。